妹変 | ナノ
Your little sister


「勝った…!」


満足気にそう呟いて電話を切る妹に心底がっくりきた。


(やっぱ全然変わってない?所詮は俺の希望的観測だった?)


俺の妹はいつになったら社会的に普通になってくれるんだろう。
それともそんな日は永遠に来ないのかと、半ば諦め加減で鏡花を見る。


「……!」


すると同じく俺を見ていた鏡花とばっちり目が合った。
予期してなかったので戸惑うが、鏡花の表情は引き続き真剣そのものだった。



「お兄ちゃん」



真剣な表情にはあまり似合わない子どもっぽい響き。
なのにそれはものすごくしっくりきて、何より懐かしかった。


鏡花も同じなのか照れ臭そうにするけどただの間違いには思えなかった。
俺は無言を戸惑いから次の言葉を待つものへと変える。


息を吸っては口パクの空振りが続き、台詞を通して聞けたのは数分後だった。




「お兄ちゃん、プロ合格おめでとう」




脈絡がなさすぎる。ように聞こえるセリフ。
だけど、それがまたしっくりくるから不思議なんだ。


鏡花からそんなセリフを聞くのは久し振りだ。
正確に言えば、言われるような機会も随分なかった気がする。


これだけ不自然な流れなのに、前に言われた時よりも自然に感じた。
久々に聞けたその言葉に込められた気持ちが分かったからかもしれない。


その純粋すぎる気持ちに照れて、からかう調子で鏡花に返す。


「急にどうしたんだよ」

「別に。言いたかっただけだから」


言葉の余韻の中で鏡花が嬉しそうに顔を綻ばせる。


その表情に思わず目を奪われた。
それは一瞬だけだったけど、相手は実の妹だと自分に早口で言い聞かせる。


「どうかした?」

「どうもしてない!」


勘のいい鏡花に気付かれそうになる。
どうしようもなくなった俺は取りあえずヘラヘラと笑っといた。


それを見た鏡花がまた笑う。
どうやら以前多用していたあの良い笑顔は封印したらしく、本当の笑顔で。


そしてまたどこからかゲームソフトのケースを取り出して俺に頼るフリをする。




「兄さん、もう一本あるから付き合ってくれない?」




呼び方が元に戻る。
三歩進んで二歩下がる、まるで何かの歌みたいだ。


そうやってゆっくり進んでくのは嫌いじゃない。むしろ好きだ。


でも、何にでも区切りってものは必要だ。
妹がつけられたんなら俺だって、鏡花の誘いに応じる前につけておきたい。


今感じている無力と未来への希望を込めて、心の中で全力で叫んでおこう。




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テーマ「人外ファンタジー」
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