妹変 | ナノ
現実に揺れない妹のこえ


鏡花に付き合って『乙女ゲーム』というものを絶賛プレイ中だ。


これは鏡花が普段プレイしてる美少女ゲームとは真逆。
画面中の人物との仮想恋愛には違いないが、男に口説かれる正常なヤツだ。


(鏡花にとっては正常でも俺にとっては違うけどな…!)


美少女ゲームは呆れながらも直視できるのに、これは出来ない。
何でかは分からないけどすごく恥ずかしい。


話の盛り上がりには必ず男の顔がドアップになって歯の浮くような台詞がくる。
そのパターンは変わらないのにあの手この手で攻めてくる。


鏡花もこの手の耐性はないのか、たまに膝に顔を埋めてゲームを中断した。


「…もうやめない?」

「ううん。やる」

「百円やるからさ、俺もう部屋に戻っていい?」

「一万円なら考える」

「ぐぬ…」


思いっ切り妹に足元見られてる俺。情けない。


「兄さんはこのゲームどう思う?」


膝に埋めた顔から片目だけを覗かせた鏡花が不意に切り出す。
急に変わった雰囲気を不思議に思いながらも答える。


「どうって…見ててなんか恥ずかしくなるけど」

「じゃあいつものは?」


向けられた鏡花の瞳がまっすぐに俺を射抜く。
足元を見られた次は妹に試されているのだと分かった。


ケンカをしても、鏡花の趣味がやっぱり変だという認識は変わらない。
世間の認識なんてもっと変わらない。風当たりの強い趣味だと思う。


それでも、お前が続けるなら俺は認めるし、全力で支える。


「詳しいことは分かんないけど、鏡花が好きなら何でもいいと思う」


このケンカを経て感じた長ったらしい気持ちをその一言に凝縮する。
ずっと言いそびれてたことだったから、言えて少しすっとした。


「…そう」


鏡花が顔を膝頭にこすりつけるようにして隠す。
その頭に手を伸ばして撫でてやると、潤んだ瞳と一瞬だけ視線が合った。


「鏡花は乙女ゲームにはハマらないの?」

「うん。私はやっぱり可愛い女の子に告白してもらうのが好きだから」

「…そっか…」


ごめん、ちょっとだけ挫けそう。だけど俺より一枚も二枚も上手なのが妹だ。


「兄さんだってそうでしょ?」


そう聞かれたら俺の普通性を証明する為にも頷くしかなかった。
さり気なく俺と鏡花が同列にされているが、兄妹だからいいんだろうか?


その疑問符が取れるのと鏡花の乙女ゲームコンプリートはほぼ同時だった。


だが、鏡花は俺よりも速く次の段階へと踏み出す。
ケータイを取り出してその場で電話を掛ける。


本来の目的である委員長への謝罪だろうと、そこはかとない緊張感で察した。


「この前はゴメン。言い過ぎた」


定番の挨拶もすっぽかして開口一番に謝罪をする妹に何重もの意味で驚く。
でもその後にすぐ納得する。


鏡花は頑固だけど素直だ。
それ故に人とぶつかったりもするけど、素直だから仲直りもできるんだ。


(俺以外でも大丈夫…だよな)


趣味は変だけど人間的には曲がってない鏡花なら、誰とだって仲直りできる。
そう信じて妹をただ見守る。


「ちゃんと乙女ゲームやったから。だから…」


その言葉に、前述の想いとは裏腹にそっちの道に行ってくれと密かに願った。
だが、そんな想いを叩き折ってくれるのが俺の妹だ。




「今度はちゃんと想像に留まらない指摘が出来る」




どこからか分厚いメモ帳を取り出して真剣にそのゲームの欠点をあげつらう。
数分後、電話越しの泣き声が聞こえた。




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