妹変 | ナノ
後輩からのラブコール


見つからない。今の状況はその一言に集約される。


踏ん切りがついて走り出したまでは良かったが見つからない。
この厳しすぎる現実に早くも心が折れそうだ。


弱さに負けて、ポケットに入れておいたケータイを取り出す。
サブディスプレイを見たところ着信はなし。それがまた虚しかったりする。


(まあ鳴んなかったし…分かってはいたけどさ…)


もう逆に冷静になってきた。
実は吹っ切れたのは俺だけで鏡花はまだ落ち込んでるかもしれない。


(落ち込むっつーか、怒ってる?)


いっそのこと面と向かって怒ってほしい。そしたら自然に謝れる。


「うおっ…」


マナーモードに設定してあるケータイが震えだす。
驚きと嬉しさで胸がいっぱいになって、反射的に携帯電話を開いた。


「もしもしっ!」

『アンタの妹じゃないッスよ』


鏡花だと思ってロクに確認もせず出たのが間違いだった。
しかもそれを見透かされててすごく恥ずかしい。


『名前表示見てから出ろよ』

「先輩に向かってその口のきき方はないだろ!」

『その様子だとアイツにはまだ会えてないみたいですね』


どこまでお見通しなんだよコイツ。


「…悔しいけどその通りだよ」

『アンタのことだからどーせ原始的な方法で探し回ってたんでしょ?』


コイツ、俺の数メートル圏内にいるんじゃないだろうか。


「つーかいきなり何なんだよ、赤崎」


通話を始めて一分。俺は初めてこの生意気な後輩の名前を呼ぶ。
赤崎が電話越しに鼻で笑ったのが分かった。


『さっきまでアンタの妹と一緒にいたんですよ』

「んなっ…!?」


なんで鏡花が赤崎と。
その組み合わせは俺に疑問と焦りしか生まない。


しかも電話越しでも赤崎の勝ち誇った表情が想像できて嫌だ。


『自分以外には懐かないって思ってました?』

「…鏡花と何の話したんだよ」


赤崎の挑発には乗らない。
というか、挑発という名のウソだと思いたい。


バッテリー残量が少ないから俺は必要な情報だけを聞き出すことに徹する。
という言い訳。


『世良さんには話さないことじゃないッスか』

「お前は何でいちいちムカつく言い方すんだよ…!」

『さあ。何でッスかね』


電話を持っている左手の親指が電源ボタンへと伸びる。堪えろ俺。


『別に切ってもいいですよ。大したこと言いませんから』

「そもそも何で電話かけてきたんだよ」

『アンタら兄妹の感動の再会を邪魔してやろうと思って』

「お前マジで何なんだよ!」


大通りを歩いてることをすっかり忘れて叫んでしまった。


当たり前だが周囲の人達から冷たい視線が注がれる。
それを避けるように裏路地へ入った。俺なりの通話続行の意思だ。


「そんで邪魔とかって何なの」


なんとか仕切り直すが、電話越しでまた笑われてるかと思うと少し腹が立つ。


『あんまり仲良さそうなんで腹立っただけ』

「はあ?」


仲良いもんか。
俺が吹っ切れようが何だろうがケンカは続行中だ。


それに鏡花と話したとか言っておきながらその物言いは絶対におかしい。
俺が赤崎に腹を立てる理由はあるけど、逆はないはずだ。


「今日のお前変だぞ…」

『もう会ってると思ったんスけどね。まあ最後まですれ違ってんのもアンタらか』


勝手に話しを切り上げられた。
つっこんでてもキリがないから放置しておく。バッテリーもそろそろヤバイ。


「もう切るからな」

『どーぞ』


妙な絡み方をしてきた割には妙にあっさりだ。
電話を耳から少し離したところで膜のかかったような声が聞こえた。


『精々がんばってくださいよ、兄貴役』


ノイズと混じってるような音なのにはっきり聞こえる。


『俺はその上前を撥ねますから』


そんな台詞を残して、赤崎は俺が切るよりも先に電話を切った。


「ホントに何なんだよアイツ…」


釈然としない気持ちを抱えながら、ケータイを乱暴にポケットに突っ込んだ。




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