妹変 | ナノ
my wings


全てを語れたわけじゃない。
ただ、時間が経った記憶の断片は自分でも笑ってしまうくらいに稚拙だった。


自分でも笑ってしまうんだから、目の前の捻くれてそうな人は絶対に笑う。
馬鹿にされること請け合いだ。


どうしてこの人に話してしまったんだろう。


数分前にすべき自問を今してる。
語り終えた後にそんなことを言い出しても意味がないのに。


少し前から自分のことが分からない。
他の誰でもない自分のことなのに、それが他の何より一番分からない。


「…何か言ったらどうですか。馬鹿とか」


取りあえず、この沈黙が耐え難いことだけは分かっている。
この人の性格からして感想として出てきそうな単語を言われる前に言っておく。


「つーか、これまでのお前の話しに肝心のゲームが出てきてねえんだけど」

「ただのオタクじゃ押しが弱いのでインパクト付けです」

「だったらソレじゃなくてもいいだろ」

「…極めて個人的な嗜好です」


美少女ゲームは始めたら見事にハマッてしまっただけだ。深い意味はない。


それより、この人が興味を持って話を聞いていてくれたことに驚く。
しかも私を馬鹿にもしない。
いつもの様子を知ってるだけにとても奇妙な感じだ。


「そんで、お前は俺に馬鹿とか言ってほしいんだっけ?」

「…あくまで例えです」


前言撤回。嫌なところを聞き逃さない嫌なヤツだ。


「でも何か言ってほしいんだろ?」


この人は兄さんと違って鋭い。
私が否定も肯定も出来ずにいると、それも読み取ったように言葉を続ける。


「まず結論から言う。お前アホ」


短く要約された言葉にものすごく腹が立つけど、反論は出来なかった。


その一言があまりにも的確に私を表しているから反論の余地がない。
いつかのようにスカートの端をきゅっと握った。


他人に一言で言い切られてしまうような、私の人生。


どこで間違えたんだろう。
逃げずに戦ってたらどんな今になっていたんだろう。


後悔したらキリがない。
それでもきっと人間というのは後悔せずにはいられない生き物だ。


現状に満足していると思っていても、必ず振り返って可能性に思いを馳せる。


「けど、それがお前なんじゃねえの?」

「……!」


学生としての本業は放棄。変な趣味にハマり親不孝。どうしようもない。
それでも、その全てが私だから。


以前は優等生だった私も、今は劣等生の私も、それを後悔する私も、全部。


「もう充分逃げただろ」


頭を優しく撫でられる。昔よく兄さんがしてくれたことだ。


(この人はどうして私に優しくするの…)


しないでよ。いつもみたいに突っ撥ねてよ。
だってこれは本当は全部、兄さんにしてもらいたかったことなんだから。


弱い私も強がる私も、全て知っているのは兄さんだけだと思っていたのに。


「それに逃げてばっかでもねーだろ」

「…どういうことですか?」

「俺にいちいち刃向かってくるじゃん、お前」


言われてやっと思い出す。そんな基本設定も忘れていた自分が情けない。


私はこの人とだけは戦った。一人のオタクとしてリア充と戦った。
最初は逃げ場所でしかなかったそこも、いつしか大切な場所になっていた。


「他のヤツにもやってやれば?」


天敵に背中を押されるなんて、今の私はそれほどまでに頼りないんだろうか。


ううん、敵からの塩を求めたのはそもそも私だ。
本当は誰かに話しを聞いてもらって、一歩進みたかったんだ。


認めよう。この人のおかげでまた進み出せることを。


「それは止めときます。これはあなたにだけですから」

「随分かわいげのない告白だな」

「告白じゃありませんから」


ああ、いつもの私だ。


いつも通りというのはすごく不確かで、見失うと戻れなかったりする。
だけど戻りつつある。


今の自分に自信を持てたから、感じた通りに振舞える。


「この借りはいつか返します」

「その時までにコーヒー飲めるようにしとけよ」


今は背伸びしてやっとの高さでも、未来の私はきっと楽々越えられる。


そうなれるように今から努力をしよう。
気付いた瞬間がいつでもスタート。私だけのタイミング。


人より遅れてる自覚がある私は、取りあえず歩きではなく全力で走っておく。




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テーマ「人外ファンタジー」
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