妹変 | ナノ
もしもソレが詐欺ならば
家に帰ると妹が珍しく電話なんてしてた。しかも家の固定電話。
帰宅の挨拶こそ飲み込んだけど、誰と何を話してるのかすっごく気になる。
手洗いうがいもそこそこに切り上げて俺は会話の断片を拾うことにした。
「タイミング悪すぎ。昨日言ってくれればお金あったのに」
いきなり不穏な雰囲気だ。
金と言えば、ちょうど今朝の出来事を思い出す。
鏡花はずっと欲しかった物をオークションで落とせたとかではしゃいでた。
「まるっきりないワケでもないけどね。未開封のもしらばがあるから」
馴染みのない単語が出てくる。
まあ流れから察するに、恐らく金に変わるものなんだろう。
「ダウンロード配信のせいで売るタイミングが難しい。売らないけど」
よっしゃ当たった…って何してんだ俺。
「あとは角砂糖の処女作も未開封で持ってるよ。きしめんで有名な」
食べ物の話し…か?
でも角砂糖ときしめんって関連性なさすぎだよな。
つーか、鏡花は一体誰と話してるんだ?
趣味のゲームの話しっぽいからいつものおじさんかと思ったけど、違う。
何故かは知らないけど、鏡花はおじさんにいつも敬語で喋ってる。
でも他にゲームの話しができる友達がいるなんて聞いたことはない。
「兄さんはプレミアついてるの何か持ってる?」
…ん?
「え、カタ●ネのサントラ!?」
ちょっと待て。さらりと重要なこと言ったよな。いや、テンションが上がる前。
「それってレア中のレアだよね!」
「…あのさ」
「あれ。兄さん帰ってたの?」
電話の相手も兄さん。目の前の俺も兄さん。
こんなに矛盾しているのに、鏡花はそれを自然に混同する。
「あ、切れた」
鏡花が受話器から耳を離す。
電話が切れたことを示す無機質な機械音が少しだけ聞こえた。
じゃなくて。
「誰と電話してたんだよ!」
「兄さんって名乗る人?」
「俺が帰ってきた時点で違うって分かるじゃん!」
「だって兄さんが痴漢して捕まって示談金が必要になったって言うから」
結構前から巷で話題の振り込め詐欺だ。
しかも引っ掛かるよりタチが悪いってどういうことだ。
なんかもう力抜ける。
「兄さんはどうして怒ってるの?」
鏡花がどこまで確信犯なのかも分からない。
だけど取りあえず今、危機感の薄すぎる妹に兄として言いたいことは。
「妙なヤツのこと兄さんとか呼ぶなよ」
鏡花の頭をぽんぽんと軽く叩くと控え目な返事が聞こえた。
いっぱいの安心感とほんの少しの独占欲。
そんな感情で満たされるのは兄として複雑だけど、まあいっか。