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1.5日目


困惑している割には正確な道案内で、その子の住居に着く。


「あの…泊まるって…」

「ぶつかったお詫びってことで」


一歩前に出て、早く扉を開けるように催促する。
ソイツは諦めたように鍵を開けた。


「…散らかってますけど」


俺は部屋に入ると適当な椅子を見つけて座る。
そこで初めて部屋全体を見回す。


たくさんの風景写真に、床に散らばる大量の絵の具と鉛筆。
そして机の上にあるスケッチブック。


「あの、どうぞ」


タオルを手渡される。
それで濡れた髪を拭きながら、もう一度部屋を見回した。


「絵描き?」


同じく髪を拭いている女の子に訊ねる。
その問い掛けにソイツは手を止めた。


「一応は…って感じでしょうか」

「画家志望?」

「それとは少し違います。絵は手段で、目的はもっと違います」

「ふーん?」


やっぱり変なヤツ。
だけど、その時はあまり気にならなかった。


「えっと、あなたは…」


気まずそうに言葉を詰まらせる女の子。
思い返せば、名乗ってすらいない。


「俺、達海猛」

「もしかして…サッカー選手の達海さんですか?」

「なに、知ってたの?」

「少し前までは日本に居ましたし、それにETUのファンだったんです」

「…ふーん」


俺のことを知ってるのは意外だった。
だから警戒心薄いのか、コイツ。


「ロンドンには観光ですか?」

「ま、そんなとこ」


正確に言うと違うけど、詳しく説明する必要は無いだろ。
どーせ短い付き合いだろうし。


それでも知っておきたいことはあるけど。


「名前は?」

「あ、失礼しました」


一回咳払いをして俺に向き直る。


「古鳥 ふゆと言います。宜しくお願いします」

「ふゆね。ヨロシク」


日本語での挨拶も久し振りだなー、なんて事をぼんやりと思った。



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