portrait | ナノ
Glorious days
「古鳥先生、締め切り分かってますか!?」
「来週…ですよね」
「分かってるなら遊んでる場合じゃ…!」
「大丈夫、ちゃんと仕上げますから」
携帯を閉じて強制終了させる。
ETUのクラブハウスに着いたからだ。
もう一度携帯を見てみるけど水鳥さんからの着信はない。
それに少し安堵して、携帯を鞄にしまった。
「達海さん、取材あるって言ったでしょ!?」
「えー。俺聞いてない」
「子供みたいな言い訳しないっ!」
ETUにもデジャヴな光景があった。
*** *** ***
「こんな完璧な監督に何の文句があるんだか」
冗談みたいなことを冗談には見えない表情で言う達海さん。
何となく永田さんの苦労が偲ばれた。
「でも、達海さんと永田さんは相性が良さそうです」
「はぁ?どこが」
本当に分からなさそうな顔をする達海さん。
私は笑ってごまかした。
「お前はどうなの。あのうるさそーな担当」
「水鳥さんですか?」
自分のことを聞かれるとは思わなかった。
私は今朝の会話や今までのことを思い出す。
「お仕事はあのくらいの方が居てくれてちょうど良いです」
私は時間にルーズだから。
あれくらい急かしてくれる人がいないと仕事が成り立たない。
「ま、俺もそーかな」
達海さんもそうなのか、意外にも同意してくれた。
でも、何故かその返事に違和感を覚えた。
どうしてだろう。自分で言ったことなのに。
仕事面で達海さんを支えられる永田さんが、少し羨ましくなった。
「じゃ、じゃあ今度お詫びとかしないと…」
「ふゆ」
無理やり取り繕おうとした言葉を遮られる。
それと同時に、背中に達海さんの体温を感じた。
ゆっくりと前に手が回されて、達海さんの顔がすぐ横にある。
何故だか、捕まった、と思った。
「だったら人生のパートナーは?」
耳元で囁かれて身体が震える。
それと同時に、自分の直感は正しかったと確信する。
「お前に合わせられるのなんて俺くらいだと思うけど」
私はきっと、この人に捕まったんだ。
達海さんの腕の力が強められる。
私たちの距離は更に縮まって、より近くにお互いの存在を感じた。
達海さんに近付く度、私は私のことが分かって。
離れてしまえば、自分が空っぽになったように寂しかった。
私には、私のこれからの人生には達海さんが必要で。
それは出会った時から分かりきってる事実。
もし、達海さんも私と同じように思ってくれているなら。
「達海さんに合わせられるのも、きっと私くらいです」
回された達海さんの手に自分の手を添える。
目が合えば、どちらからともなくキスをした。
「お前だけだ、ふゆ」
少しだけ言い直された返事がすごく嬉しい。
指輪もなければ、誓いの言葉もない。
どこまでも不器用な私達だけれど。
「愛してる」
たった五文字の最上級の愛の言葉に涙が出る。
五年前からの想いも溢れ出す。
「私も…大好き…」
「あれ。俺のとビミョーに違くない?」
「…同じ…です」
言葉は違くても伝えたい気持ちは一緒だから。
「まあ良いけど。先は長いしね」
「はい…!」
ささやかなことに幸せを見つけられる。
だからきっと、これから続く毎日は幸せなんだと思う。
いつかこの道を振り返る時、あなたへの気持ちが私の全てだと気付くはず。
Fin.