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色に出でにけり わが恋は


ふゆは俺の部屋で仕事をするようになった。
俺がビデオを見ている傍らで、スケッチブックに筆を走らせている。


当然ながら会話はない。


一緒に居られるだけで幸せと言えば幸せだ。
ふゆも会話が少ないのを気にしているようには見えない。


これじゃ前と何も変わってないんじゃないか?


ちょうど集中も切れてきた俺はビデオを止める。
そういや、いつも先に集中が切れるのも俺だ。


「ふゆ」


後ろから抱き着いてやると、ふゆは手を止めて俺を見た。
手元のスケッチブックにはETUの練習風景が描かれている。


五年前は人物画は専門外とか言ってたくせに。
あの一件以来「人あっての風景だ」とか言って、今ではどんどん描いている。


「…達海さん?」


絵の方では成長があったみたいだけど、こっち方面は相変わらず疎いヤツ。
いちいち言わないと伝わらない。


「実験」

「何のですか?」

「お前が俺と絵のどっちを取るか」


皮肉を込めて言ってやる。
ふゆもやっと分かったのか、苦笑した。


「それは興味深い実験ですね」

「だろー?」


ふゆがスケッチブックを閉じて床に置く。
そして俺の腕の中でもぞもぞと動いて、向き合うような形になった。


「私もちょうど知りたかったところです」

「何を?」


ふゆが控え目に俺の首の後ろに手を回す。
いつになく大胆だが、真っ赤な顔で無理してるのがバレバレだ。


「恋愛感情が絵にもたらす具体的な効果です」


これで意趣返しでもしたつもりなんだろうか。
ま、コイツにしちゃ頑張った方か。


乗ってやるのも悪くない。


「両方取るってわけか。欲張りなヤツ」

「女の子はみんなそうですよ」


最後まで強がるふゆにキスをして、そっと押し倒した。


*** *** ***


「何か変わった?」

「…色使いを変えようと思いました」


全体的にピンクに着色された絵を見て、やっぱり素直なヤツだと思った。



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