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Blank days


画家として名高い父の元に生まれた。
私が画家を志した時、環境は充分すぎる程に整っていた。


お金に不自由することなく、技術面で挫折することなく。
苦労を知らず、世界を知らず、恋も知らず。


だけど人並みに夢を持った。
世界を彷徨い歩き、そのゴールは恋だと知った。


そんなのが私の人生の概要。




「お前の父親って有名な絵描きだろ?」


達海さんに私のことをもっと知ってもらわなきゃ。
そう思ってた矢先の不意打ち。


「ご存知だったんですか?」

「五年もあったんだ。さすがにそんくらい調べてる」


調べた、という単語が引っ掛かる。
わざわざ私の為にしてくれたのかと思うと少し気恥ずかしい。
それに申し訳なく感じる節もある。


だけど、やっぱり最後には嬉しくなる。
達海さんはいつだって私を嬉しくしてくれる。


私が同じことを出来ているのかは、分からないけれど。


「でも私が賞を取ったのは知りませんでしたよね?」

「その時は仕事が忙しかったんだよ。タイミングが悪かったの」


こういう所で、達海さんは仕事優先な人だと分かる。
そんな中で私なんかに時間を割いてくれるから、余計に嬉しい。


「なに笑ってんの」


どうやら顔に出てしまっていたらしい。
指摘されて取り繕おうとするけど、すぐには無理だ。


私は恥ずかしくなって達海さんに背を向けた。


「ふゆ」

「…!」


振り向けない今の状態で、達海さんに後ろから抱きつかれる。
私は更に動揺してしまう。


「た、達海さん、あの…」

「お前の全部は俺のモンだって言っただろ?」


どこかの子供みたいな台詞。
でも達海さんはいつもの悪戯っ子みたいな笑顔じゃなくて。


時折見せる、歳相応の落ち着いた笑顔だった。


「お前の話はお前から聞きたい」


その一言でまた嬉しくなる。


私もあなたに同じことが出来るでしょうか。
今は無理でも、きっといつかは。


私の言葉であなたを幸せに出来るように。
いつだってそう願って言葉を紡ぐ。



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テーマ「人外ファンタジー」
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