portrait | ナノ
Everything


「これからどーすんの?」


単刀直入に聞いてくるのが達海さんらしい。
その真っ直ぐな瞳に耐えられなくて私は俯く。


「旅はやめて、でも絵は描き続けて…」


そこまで言って言葉を止める。
流されそうになる気持ちを、ほんの少しの勇気が止めた。


逃げないって決めたのに。


初めてのことは怖い。
散々振り回されたこの気持ちを言葉にするのも。


だけど、言葉にしなきゃ始まらない。


私は顔を上げてしっかりと達海さんを見つめる。
今感じている気持ちをそのまま言えばいい。


達海さんに出会った時から大切に抱えてきた気持ち。
他に比べられるモノがないくらいに純粋なモノ。


私が持っているモノの中で、唯一誇れるモノだから。


手を伸ばして、達海さんの服の袖を弱々しく握る。
それだけで勇気をもらえる気がした。


「達海さんとずっと一緒に居たいです」


私は、達海さんが大好きだから。


達海さんが息を吐いて目を閉じる。
次の言葉が怖い。


ううん、もう逃げない。


「ふゆ」


達海さんが閉じていた目を開ける。
そして目が合った瞬間、分かったような気がした。


私がどれだけこの人を待たせていたのか。


「お前から俺を掴んだの初めてだ」


ロンドンで手を引かれて始まった達海さんとの関係。


雨に降られた時も、別れた時も、再会した時も。
今までのどんな時も、達海さんが私を引っ張ってくれた。


いつだって達海さんから私を求めてくれていたんだ。
私は自分が困った時でさえ、逃げようとしただけだった。


だけど、今やっと。
スタートラインに立てたのかな。


「こんな風に、お前の初めて全部くれんの?」


達海さんに顔をぐっと近付けられる。
これには流石に恥ずかしくなって俯く。


だけど、私は下を向いたまま小さく頷いた。


「じゃあ貰う」


頬に手を添えられて上を向かせられる。
達海さんのどこか満足そうな笑顔が見えた。


五年前は咄嗟に止めた達海さんとのキス。
今度は目を閉じて受け入れた。


初めてのキスも、初めての恋も、全部あなたにあげます。
この先のどんな風景も、あなたと一緒に。




次に目を開けた時、見える世界はどうなってるだろう。


きっと、大好きな人が居る、大好きな世界だ。




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テーマ「人外ファンタジー」
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