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1日目


曇り空。
今にも雨が降り出しそうな天気。


(早めに宿とって、部屋の中でじっとしてよう)


辺りを見回す。宿らしき建物は見えない。


(ま、歩けばどこかにはあるだろ)


取りあえず歩き出した矢先だった。


「きゃっ!」


曲がり角で人にぶつかる。
きゃー、とか言ってたから女か。


声のした方向を見ると、女が見事に尻餅ついてる。
俺は手を差し伸べた。


「すみませ…じゃなくて、あいむそーりー!」


ものすごい日本語英語でそう言って、女は俺の手を握った。


「日本人?」

「え? あ、はい」


外人ばっかりみてきたせいか、物凄く幼く見える。
俺より年下なのは間違いないけど、それにしても小さく見える。


そこまで考えて目が合う。
目の前の子も俺を熱心に見ていた。


「なに?」


声をかけると、その子は急いで頭を下げる。


「こちらの前方不注意ですみませんでした」

「いや、俺もだし」


そこでついに雨が降り出す。しかも本降りだ。


「やべっ…」

「それじゃあ失礼します!」


ちゃっかり走り出す女の子。
俺は反射的にその手を掴んだ。


「アンタが住んでるとこって近い?」

「近いと思います、けど…」

「じゃあ今日泊めて」


ぽかーん、って顔をされる。
当たり前だ。こっちも思いつきなんだから。


「俺まだ宿とってないんだよね。それに雨も降ってきたし」


適当に理由を付ける。
変わらない女の子の顔に、俺はついに痺れを切らした。


「分かんねーヤツだな。いいよ、家どっち?」

「あ…あっちですけど」


方向を指差す。聞かれたことには答えるらしい。
俺はその手を掴んだ。


「走るよ」

「わわっ…」


雨が降るロンドンの路地。
俺達はそんな出会い方をした。



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