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Shiny days


ふゆに俺の一番の景色を見せてやった。


特に言葉も交さず、二人でいつまでもそこに居た。
何故かそれだけでとても満ち足りていた。


日付が変わった頃、ふゆの手を握ってみた。
気付いたように俺を見上げるふゆ。
その瞳は色んな感情が入り混じっているように見えた。


きっと今のふゆを手に入れるのは簡単だ。
コイツは五年前の俺と同じで、何かに逃げようとしている。


それを受け入れてやるのが、ふゆを愛してる証明になるんだろうか。


俺はどんなふゆでも好きだ。
五年ぶりに再会して、やっぱり好きだって思った。


いつだって絵が一番のヤツが、今は絵の為に苦しんでる。
だから俺を一番にしてくれるかもしれない。
それも悪くはないんだけど。


『何も成せぬまま死んでしまう方がずっと嫌です』


お前はそう言ってたじゃん。
絵の為に苦しんでんだろ、なら逃げんなよ。
待っててやるから。


出口までふゆの手を引いて、何も言わずにその手を離した。
ふゆは無言で礼をして去っていく。
小さな背中はえらく儚げだ。


それでも、不思議と大丈夫な気がした。
次に会う約束なんてしなくてもふゆには会える。
今度は多分、お互いに心からの笑顔で。


俺はふゆの姿が見えなくなってから空を見上げる。


広がる濃紺にたくさんの白が散りばめられている。
それを包み込むように淡く輝く月。


ふゆが好きな雨空とは違う、雑然とした空だ。
でも、今ならきっと悪くはないだろ?



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テーマ「人外ファンタジー」
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