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My way


「すっごく良い絵じゃないですか!」

「ありがとう、水鳥さん」


あれから五日。
私は家に篭りっきりで一枚の絵を完成させた。


完成した絵を一番に見るのはマネージャーである水鳥さんだ。


水鳥さんは一頻り褒めてからその絵を運ぼうとする。
私はそれを無言で制した。


「古鳥先生?」

「ごめんなさい。これはお譲り出来ません」

「ええ!?」


雇われの身でありながら、なんて自分勝手なんだろう。
水鳥さんが驚くのも当然だ。


それでも、やっと形にできたものだから。


「前に言ってた目標の一枚ってことですか…」


私が頷くと水鳥さんは深い溜息をつく。
本当に申し訳なく思う。
けれど、今度こそ目を逸らさずにいよう。


水鳥さんが不意に何かを思いついたように顔を上げる。
その目に強い不安が見えた。


「…絵描きやめるとか言いませんよね?」


この絵を描きながら何度も自問したことだ。
五年前の達海さんの言葉を思い出しながら、何度も考えた。


『そんなの早くないほうがいい。その後の時間がつまんないから』


そう言ってた達海さんが、私をここまで導いてくれた。
だから答えは迷わない。


「やめないよ」


目標を遂げた後のことはそのとき考えようって思ってた。


でも、考えなくても分かってる。
一人で歩いてる時はすぐ前も見えなかったのに。


『だから、もう旅するのやめろよ』


達海さんの一言で迷わずにいられる。


「もう旅はしないけど、絵を描くのはやめない」


自分に言い聞かせるようにゆっくりと言う。
それを聞いた水鳥さんは顔をぱあっと明るくさせた。


(取りあえず、仕事の埋め合わせは後でしよう…)


まずは達海さんにお礼を言いに行こう。
五年前も五日前も伝え損ねた気持ちを、今度こそ伝えよう。


私は完成した絵をもう一度見る。
そこには確かに、私の人生の全てがあった。



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