portrait | ナノ
Some day


雷門って素晴らしいと思う。
今度のモチーフはこれに決めた。だから毎日見に来てる。


これが私の絵の描き方。
モチーフを十分に見て、そして構図のひらめきを待つ。
それさえ思いつけば完成は早い。


まるで私の生き方みたい。
ある程度の目標はあるものの、結局は行き当たりばったりだ。
そんな絵を気に入ってくれる人が居るのだから、世の中って優しい。


今日もただひたすらに、頭を真っ白にして雷門を眺める。


ただ、最近これがどうにも上手くいかない。
この近くに達海さんがいるかと思うと、意識してしまって集中できない。


ETUのクラブハウスに行ってみれば良い。
行ったことがあるから道は知ってる。


でも、それをしない。
言い訳は幾らでも思いつく。そんな自分に嫌気が差す。


『後悔しないで生きること』

『お互い後悔しないで生きてたら、また会えます』


昔、私が偉そうに達海さんに言ったこと。
それが今、全部自分に返って来る。


行かなきゃ後悔するよ、私――


「!」


急に視界が真っ暗になる。
それと同時に、感じる温もり。


「だーれだ」

「…!」


特に抑揚もついていない声なのに、どうして分かってしまうんだろう。
何年も会っていなかったのに、どうして覚えているんだろう。


「もしかして分かんない? だとしたら傷付くんだけど」


視界は真っ暗なまま。
だけど、その人の姿はしっかりと思い描ける。


「そろそろ時間切れだけど、本当に分かんない?」


なのに言葉が出てこない。
こんなに嬉しいものだなんて思ってなかった。


いっぱい話したいことがあるのに、一言しか伝えられない。
あの時と同じなのに、理由は違うの。


「達海さん…」

「ん、正解。遅かったけどね」


五年前に抱いていた気持ち、今まで抱えてきた想い。
それが一つの言葉になった気がした。



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