portrait | ナノ
6.7日目
「!」
咄嗟に達海さんの口に自分の手を当てた。
自分でも感心するほどの反射神経だ。
「…ふぁにふんだ…」
達海さんに不満そうに睨まれる。
「駄目ですよ」
そう言って口に当てた手を離す。
達海さんは訝しむような目をした。
「自暴自棄になっては駄目ですよ、達海さん」
「はぁ?」
本当にワケが分からないと言った顔をする達海さん。
私は笑ってしまう。
私があなたについて知っていること、分かること。
どうしてあなたには分からないんだろう。
言わないと伝わらないんだろう。
全部あなたのことなのに。
「達海さんは、チームが劣勢の時こそ自分で引っ張っていく方でした」
移籍でゴタゴタがあったのは知ってる。
その後がどうなったかも、何となく。
達海さんは旅に目的は無いと言っていた。
だから、今どんな気持ちなのかも、想像だけなら。
「今回だってきっとそうですよ」
それでも、私はあなたを送り出す。
また輝いて欲しいから。
本当に伝えたい言葉は、そっと胸にしまって。