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5.2日目


ふゆの作ったアップルパイは美味かった。
それで料理が出来るのは分かった。


でも俺が一番疑問に感じるのは。


「お前、絵は?」


ふゆが絵を描いてる所を一度も見たことが無い。
スランプって訳でもないだろう。


「人生がどーのって言ってた割には描いてないよな」


ふゆが苦笑する。自覚はあるんだ。


「今はモチーフを探してるとこなんです」

「モチーフ?」

「絵の題材です。それが見つかれば完成は速いんですけどね」


絵のことはよく分かんねーけど。
ふゆはいわゆる、キッカケを掴むと速いタイプか。


それでも腑に落ちない点が一つある。


「だから手ぶらで歩き回ってたのか?」

「はい」


ふゆが頷く。それが無性に悔しくなった。


ふゆはずっと風景を探してたって事だ。
俺と出会ってからもずっと風景を探していた。


俺との出会いは、お前にとって何なんだ。
お前を満足させるようなものにならなかったのか?


「俺じゃダメなの?」


そう思ったら反射的に言ってしまった。


ふゆは驚いた表情を見せる。
だけど、すぐにお決まりの困ったような笑みを浮かべる。


「私は風景画しか描かないんですよ。人物画は専門外でして…」


何を勘違いしたのかそんな事を言う。


「…ちげーよ」


絵なんて全然描いてないくせに、何で思考は絵でいっぱいなんだよ。


コイツが気にしてるのは絵のことだけだ。
だから俺を泊めることもあっさり了解した。


全く意識されてない。そう言うことだろ?



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テーマ「人外ファンタジー」
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