portrait | ナノ
4.5日目


「私なんかに付き合ってて大丈夫なんですか?」


用意したサンドウィッチを食べる達海さんに聞いてみる。


「何が?」

「何か目的があってロンドンに居るんじゃないですか?」


達海さんは考えるような素振りを見せる。
そして達海さんらしいと言うか、淡々と言った。


「目的なんてねーよ」


正直、何となくそんな気はしていた。


出会ってからの数日。
達海さんはただ歩き回る私について来てただけだった。


目的が無いという事は、観光ですらないという事なんだろうか。


「俺はお前の言う、達成した後の時間を満喫中なの」

「…そうですか」


そう話す達海さんは全然楽しそうじゃない。
満足しているようにも見えない。
それは本当に。


「達成したんですか?」

「ま、してないとも言えるけどね」


(あ、まただ…)


時折見せる、達海さんの遠い目。
過去を懐かしむような、先を見てないような危うさを感じる。


私はこの人の事を何も知らない。
知ってるのは試合での活躍と、共にした数日間だけ。
過去のことは殆ど知らない。


本当はもっと知りたい。けど聞けない。


「でも後悔はしてないから」


物憂げな笑顔。
どうしてそんな顔するんですか。


その言葉が本当なら。
何故、あなたは満足そうじゃないんですか?


「…ちょっと出掛けて来ます」

「どこ?」

「本屋です。行きますか?」

「…行かない」


この人はまだ途中なのかもしれない。
何かを成す途中、何かを成す為に苦しんでいる。


そう思ったら、居ても立っても居られなくなった。


(変なの…)


自分の事にしか興味が無かった。
自分の時間は全て自分の為に使ってきた。


そんな私が、人のために動いている。
何かをしてあげたいと思っている。


もっと楽しそうに笑って欲しい。
有意義に時間を使って欲しい。


私なんかとダラダラ過ごすのではなくて。
ただ世界をさ迷い歩くのではなくて。


あの人はそういう人じゃない。


私はサッカーの本を手に取って読み始めていた。



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