Kiss me, Darling! | ナノ
Thank you, Darling!


練習帰りに何となく町をぶらついてみる。


「!」


小さな商店の前で思わず足を止めた。
浅草らしい、和風の小物屋だ。


目立つところに飾ってある髪飾りを手に取ってみる。


(理乃ちゃんに似合いそうだな…)


そう思いながら、足を止めた理由でもあるソレを眺める。


(やっぱ良いな。よし!)


それをレジに持っていくのに、そんなに時間はかからなかった。


*** *** ***


「ただいまー」

「おかえりなさい」


家に帰ると、理乃ちゃんが夕飯の用意をしてくれていた。
何か良いよな、こう言うのって。


「今日の夕飯は?」

「和風だよー」


確かにお味噌汁の匂いがする。
それにしても、一番簡単に答えるのが理乃ちゃんらしい。


俺はさっき買った髪飾りを持って台所を覗きに行く。
理乃ちゃんは鍋をかき混ぜていた。


「肉じゃが?」

「うん、そうだよ」


俺を気に留めることもなく、鍋を混ぜ続ける理乃ちゃん。
少し複雑だけど、今日は好都合だ。
理乃ちゃんの髪を一房手にとる。


「…恭平くん?」


理乃ちゃんが手を止めて俺の方を見る。
だけど俺は必死で髪飾りと格闘する。


「出来た!」

「…髪飾り?」

「うん、やっぱ理乃ちゃんによく似合う!」


上手くつけることは出来なかったけど、それでも似合っている。


理乃ちゃんは髪飾りに手を当てて不思議そうにしている。
かと思うと、鍋の火を止めて、いきなり駆け出した。


「…理乃ちゃん?」


駆け出した先は……洗面所?
しばらくして、理乃ちゃんがそこからひょっこりと顔を出した。


「ありがとう!」


本当に嬉しそうな笑顔。見るのは久し振りだ。


俺はこの笑顔が見たかったんだ。


いつもそうであるように頑張らなきゃな。
こんな小さなことで喜んでくれるんだから。


「今朝は大きな声出してごめん」

「私も…ごめん」


小さな身体を抱きしめると、理乃ちゃんの小さな謝罪が聞こえた。
もしかして、と期待する。


「デリケートな問題だもんね」


この問題の解決は大分先になりそうだ。


けど、今日は良いか。





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