Kiss me, Darling! | ナノ
おやすみ。
細々とした家事は明日への準備。
暗闇の中でセットする目覚まし時計。
ぐっすりと眠りについている恭平くんを起こさないように。
電気も点けずに、暗闇の中をこそこそと歩く。
(幸せそうに寝てる…)
ベッドにたどり着くと、恭平くんの寝顔がはっきりと見える。
同時に布団を掛けていないのも見えた。
(子供じゃないんだから…)
心の中で溜息を吐きつつも布団を掛け直してあげる。
プロ選手なのに。もう若手じゃないのに。
いつまでたっても子供みたいな人。
子供みたいにまっすぐで、常に余裕なさそうで。
私の気持ちなんてきっと気付いてない。
今だって、人の苦労も知らないでぐっすり眠ってる。
「家事も結構大変なんだよ?」
遅く寝て早く起きて。
自分の時間なんて一日の内に少ししか取れない。
それでも、面倒くさい家事をこなす理由。
ゲームみたいに一日毎にリセットされる毎日を繰り返す理由。
(こうやって安心して眠ってもらう為だよ)
優しくて心配性の恭平くんが私より先にぐっすり眠っている。
それは私への信頼だと思うから。
守られてるだけだった以前とは違う。
今は恭平くんを助けることだって出来るんだ。
もう子供じゃないよ。
恭平くんの額にかかる前髪を除けてそっとキスする。
こうやってこっそり元気を貰ってることは私だけの秘密。
やっぱりまだ子供かな。
でも、ちょっと甘えるくらいは良いよね?
「おやすみ、恭平くん」
明日は何時に起きて、どんなメニューを作ろうか。
そんなことを考えながら目を閉じる。
入ったばかりは冷たかった布団。
一日の疲れを癒す温度になるまで、あと少し。