短編 | ナノ
大好きなんだよ?
絶対に私の方が恋人に振り回されてる気がする。
恭平くんは私が振り回してるって言うけど絶対に違う。
私は言葉にしないだけ。
例えば、たまに出掛ける約束をしても恭平くんは必ず遅れて来る。
理由はその時々で変わるけど、時間通りにはまず来ない。
携帯電話なんて便利なものがあったって通じなければ意味がない。
掛けたって出ないからいつしか掛けるのを止めた。
その数十分後にはいつも息を切らした恭平くんが来るから。
走ってたから電話に出られなかったんだな、とか。
走るくらいなら最初から遅れないでほしいんだけど、少し嬉しかったりもして。
要するに、私は恭平くんに会えるだけで嬉しいんだ。
多少の遅れなんて気にしない。
まあ流石に三十分前とかに来るのは止めて十分前に来ることにしてるけど。
だから、その人影は意外だった。
「恭平くん?」
「あ、理乃ちゃん!」
名前を読んだら返事をした。
加えて見慣れた笑顔もついてきたから、これは間違いなく本物だ。
「今日もめっちゃ可愛い!それってもしかして俺がこの前あげたアクセ…」
「どうして今日は早いの?」
恥ずかしい言葉が続きそうだったから被せて止めた。
恭平くんはバツが悪そうに頭を掻いた。
「俺っていつも遅れて来るじゃん?」
腕時計を確認するとまだ約束の時間の十分前だった。
視線を戻すと、恭平くんはますますバツが悪そうにした。
「あんま遅れると理乃ちゃんに嫌われるかもって思って…」
「私そんなこと言った?」
「言ってないけど!…俺が勝手に不安になった」
確かに私は時間にルーズな人は好きじゃない。
じゃあ、好きな人が時間にルーズという事実はどう理解しよう。
結局は全部好きなんだよ。
一瞬でそんな答えが出るくらい強い気持ち。
君が好きだって伝えたい。
「恭平くんは私が時間に遅れたら嫌いになるの?」
「…なるわけない!」
「私も同じだよ」
知ってるんだよ、恭平くんがいつも遅れる理由。
恭平くんは色んな言い訳をするけど、いつも同じ理由だってこと。
きちんと組まれたデートプランと眠そうな目を見れば分かる。
恭平くんの性格的に、前日の夜に慌ててやってる姿が目に浮かぶ。
分かってるから会えるだけで嬉しくて、走ってきてくれると許しちゃう。
「私だって、恭平くんが大好きなんだよ?」
どんな君も大好きだよ?
君が今日も大好きなんだよ?
「…俺、次も早く来るから!」
「そうなんだ」
「そしたら…また言ってくれる?」
頷く代わりに恭平くんの手を握った。
「せっかくはやく会えたんだから、はやく行こ?」
君のおかげでいつもより早く待ち合わせ場所を離れられる。
いつもより、君と長く過ごせるね。
*** *** ***
「恭平くん、映画終わったよ」
「ん…もう少し…」
その後、やっぱりと言うか映画館で寝てしまった恭平くん。
本当にプラスマイナスゼロな人だと思った。