短編 | ナノ
うるさくないと君じゃない


俺が好きな人は。
年上で、美人で、仕事も出来る完璧超人で、そんで天然。


「理乃さん大好きッス!俺と付き合って下さい!」


そんな人にささやかなアプローチは通じない。
俺は玉砕覚悟で直球な告白をした。


「付き合うって、男女のお付き合いってこと?」

「そうッス!」

「うーん…」


いつも即断即決の理乃さんが珍しく考え込む。
沈黙がやけに長く感じて背中に嫌な汗をかく。
玉砕覚悟とは言いつつ、やっぱり頷いて欲しい気持ちが大きい。


(頼む!オッケーしてくれ!)


理乃さんに嫌われてはいないと思う。
どっちかと言うと好かれてるんじゃないかと思う。
恋人はいないって聞いたし、他に好きなヤツがいる様子もない。


俺にも一縷の望みはあるんじゃないかと思って告白した。
理乃さん相手だと、多分それくらい強く出ないと気付かれないと思ったし。


縋るような思いで理乃さんを見つめる。
理乃さんの視線とぶつかると、ため息を吐かれた。


「私、うるさい人は好きじゃないんだよね」

「え…」


文字通り玉砕した。
はっきりと言われたその言葉は明らかな拒絶の言葉だ。


「でも、世良くんの顔は好きだよ」


息の仕方さえ忘れそうになった頃、正反対の言葉が聞こえた。


「静かにしてくれるなら付き合ってもいいよ」


天使のような笑顔に、小悪魔みたいな台詞。
俺はこんがらがった頭で何が何だかよく分からない内に頷いた。


条件付きであっても、理乃さんからオーケーが貰えた事実。
そして、絶対に静かにしてやるって気持ちだけが俺の中にあった。


*** *** ***


それからの俺はめちゃくちゃ頑張った。
赤崎に笑われながら、丹波さんにからかわれながらも頑張った。


どんな時も「静かに」を徹底した。
簡単なことじゃなかったけど、理乃さんが好きだったから出来た。


理乃さんと付き合いたかったから頑張れたんだ。


「世良くん、映画のタダ券貰ったから今度行かない?」

「マジッスか!やったあ、行く行く…」


全てが順調に行ってる時の、たった一瞬の油断。


あまりの嬉しさに気が緩んだ。
その一瞬で全てが駄目になることもある。


自分が青ざめていくのが分かる。
だけど頭は冷静に働いていて。


何か言われる前に自分から動かなきゃと思った。


「スイマセン!俺…」

「あ、ううん。別にいいよ」


理乃さんに呆れられてしまっただろうか。
その表情を捉えようとすると、ばっちり目が合ってしまった。


ダメな時ってホントに全てが上手くいかない。


タイミングを逃しっぱなしで混乱を隠せない。
そんな俺を見て、理乃さんは困ったように笑った。




「やっぱり静かな世良くんは世良くんじゃないよね」




そう言って一人で納得するように頷く。
その発言は、ごちゃごちゃの俺の頭を真っ白にさせてくれた。


「私ね…」

「じゃあどうすりゃいいんスか…!」


理乃さんがうるさいのは嫌いだって言うから、静かにする努力をした。
そんな慣れない努力もするほど、俺はこの人のことが好きで。


目の前にいる理乃さんは驚いた顔をしている。
だけど、しばらくするとその表情は笑顔に変わった。


「今まで通りでいいよ」


付き合ってくれるって言った時と同じ笑顔で、あの時とは真逆のことを言う。
あまりにも自然に言うから、すんなり受け入れそうになる。


「それってどういう…」


流されそうになる疑問を辛うじて言葉にする。
理乃さんは軽く笑って、俺の疑問に答えるように言葉を続けた。


「うるさい人は嫌いだなあって思ってたの」


それは前に聞いた。


「でもね、世良くんが静かにしたら変だった」


それもさっき聞いた。


「何て言うか、好きじゃなくなった」


それは初耳だった。
しかも出来れば聞きたくなかった部類だ。


告白してから今までの努力が全部無駄って言われた気分だ。
実際そう言われたに等しいんだけど。


でも、多分まだ続きあがる。


それに期待するから、俺は理乃さんをまっすぐに見つめる。
お互いの視線が交差するとぷいっと逸らされた。




「そのままの世良くんが好きだったんだなって、気付いた」




少し恥ずかしそうに呟く理乃さん。


ヤバイ。
さっきまでの困惑とかが、どんどん好きって気持ちに変換されていく。


こんだけ振り回されっぱなしなのに相当だ。
俺、相当この人が好きだ。


「じゃあ…私そろそろ行くから」

「だー!ちょっと待って!」


言うだけ言って去ろうとするその背中を捕まえるように抱きしめる。
数十分前までの心掛けなんてもう忘れた。


「理乃さん大好き」

「…うん」


静かにするのは努力が必要だったけど、逆はそう難しくない。


「理乃さんも言って下さいッス!」

「えー」

「俺さっきマジで焦ったんスから!」

「はいはい、好きだよ」

「もっと心込めて下さいよ!」


理乃さんが隣に居てくれれば、それだけでずっと元気でいられるんだ。




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