短編 | ナノ
6分の2
「美味しいタルト買ってきたんだ」
キッチンで散々ドタバタしてた理乃の第一声。
裏があるのは見え見えだ。
「…六等分にしてもらえないかな」
気まずそうに何を言い出すかと思えば。
また下らないことだ。
「自分でしろよ」
「四等分か八等分なら出来るんだけどね」
「だったらそーしろ」
「それだと大きさが良くないの!」
理乃は不器用なくせにワガママだ。
女らしいと言うか、女らしくないと言うか。
「ったく…」
「どーもすみません」
俺が立ち上がるのを分かっていたように理乃は歩き出す。
腹は立つが、軽い調子の鼻唄に悪い気はしなかった。
*** *** ***
「こんなモンだろ」
「わー、ありがとー」
棒読みの礼と可愛らしい拍手が返ってくる。
すげー腹立つ。
「さ、おやつの時間♪」
棚から食器を取り出す理乃。
それが一枚なのにまた腹が立つ。
「…遼くんも食べる?」
俺の視線に気付いて、いかにも仕方なくと言った感じで聞いてくる。
流石に頭にきたからわざと大袈裟に頷いてやる。
理乃は皿を持ったまま固まった。
「えっ…何で食べるの?」
「人に切らせといて自分だけ食う気だったのかよ」
「うん」
何でコイツ悪びれないんだ。
*** *** ***
「…紅茶飲む?」
テーブルに皿を置くのと同時に聞かれる。
また仕方なくって感じだ。
理乃は一刻も早くタルトを食いたいんだろう。
その目的が分かるだけに邪魔したくなる。
「飲むから用意しろ」
「はーい…」
トボトボとキッチンへ向かう理乃。
せめてもの当てつけに、理乃を待たずに食べ始めることにした。
*** *** ***
時間が掛かると思われた紅茶は、意外と早く目の前に置かれた。
大して湯気が立っていないソレに溜息が出る。
「どうかした?」
「お前な…」
ティーカップに口をつける。
予想通り、味が薄くてしかも温い。
「再沸騰させろよ」
「それだと遅くなるから」
「70度じゃぬるい」
「猫舌の私には適温だよ」
そう言ってぬるい紅茶を啜る理乃。
ただ、その顔はさっきまでと違って不機嫌そうだった。
「その顔やめろ」
「…だって遼くんが食べ始めちゃうから」
「はぁ?」
「再沸騰なんてさせてたら、遼くんが食べ終わっちゃう」
予想の斜め上からの不意打ち。
別にそれでも待ってた、なんてこの状況で言える訳がない。
「…こんなの食ったら太るな」
「乙女発言!女子力高い!」
手に持ってるフォークを頭に突き刺してやりたい。
だけどさっきの一言がそれを止める。
(何だかんだで得してるヤツ)
理乃の食べるペースを見て、次の一口の大きさを決めた。