短編 | ナノ
Crash!!


「試したいことがあるの。付き合ってくれない?」


そう恋人に可愛く言われたら付き合わないわけにはいかない。


理乃ちゃんの希望で、俺がオフの日に二人で公園に行く。
俺の隣でいつになくワクワクしている理乃ちゃん。


「試したいことってなに?」

「…ひみつ」


サッカーボールを持ってるから、サッカーに関することだろうか。
理乃ちゃんと手を繋ぎながらそんなことを考えた。


「恭平くん、遠くに立って」


一番広い広場に着くと、理乃ちゃんがそんなことを言う。
俺は言う通りにする。


「ここらへん?」

「んー…もうちょっと。あと10歩」


やたら具体的な指示をされる。
本当に何なんだろう。急に不安になってきた。


「あ、そこで良い。後ろ向いて」


理乃ちゃんと大分距離が開いた。

なのに後ろとか向くの?


「合図はするけど、振り返らないでね」

「…分かった」


もう覚悟を決めるしかない。俺は理乃ちゃんの合図を待つ。


「行くよー」


遠くから理乃ちゃんの声が聞こえる。
反射的に振り返りそうになったのを何とか抑える。


「とりゃあっ」

「いで!!」


猛スピードの何かが頭にぶつかる。
俺は思わぬ不意打ちと強烈な衝撃に思わず倒れた。


地面に倒れこむと、横に転がるサッカーボールが見えた。
ああ、これが当たったのか。


理乃ちゃんが駆け寄ってくるのが見える。
これは何かの事故で、心配とかしてくれてるんだろうか。


「恭平くん、どうだった?」


そうですよね、事故とかじゃないですよね。


理乃ちゃんは子どものように目を輝かせている。
何でだ。何が知りたいんだ。


「普通に痛いよ、何すんの!?」


俺は頭を抑えて立ち上がる。
理乃ちゃんは不思議そうに首を傾げた。


「サッカー選手って頭でボール打つの痛くないのかと思って」


どうやら理乃ちゃんに悪意は無かったらしい。
そう思ったら、痛みも忘れるくらいに脱力した。


「それでどうだった?」

「だから痛いって。不意打ちだし、殺気こもってたし」


俺が素直に答えると、理乃ちゃんはびっくりしてる。
だから何でだ。
今日の理乃ちゃんは特に分からない。


「本当にボールを通して伝わるものなんだ…」


理乃ちゃんからそんな呟きが確かに聞こえた。


「理乃ちゃん、俺を殺そうとしてたの!?」

「そ、そんなこと思ってないよ。ただ…」


そこまで言いかけて続きに詰まる理乃ちゃん。
何だか様子がおかしい。
いや、今日は最初からおかしかったけど。


「恭平くん、最近ファンの女の子にデレデレしてたでしょ」


ああ、そう言うことか。


俺は少し顔を赤らめた恋人を抱きしめる。
今日こそ怒ろうと思ったのに、まいったな。


こんなに可愛い理由じゃ、こっちが嬉しくなってしまう。


「ごめん。でもそれ勘違いだから」

「勘違いなんかじゃ…」

「俺を嬉しくしてくれるのは理乃ちゃんだけだから」


方法に問題はあるけど、その本音はいつだって可愛い。
それに俺も、誤解させちゃったのは反省しないとな。


「…こんなことされても?」

「出来れば口で言って欲しいかな」

「ごめんね。でも一度やってみたかったの」


その笑顔に、純粋故の悪意を感じた。



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