結局『安心院』の正しい読み方は妹から教えてもらえなかった。
だが気になってはいたので、知ってそうな赤崎に何かのついでに聞いてみた。
「あじむって読むんスよ。九州のどっかの地名です」
即答だった。知ってそうだと思ってはいたけどやはり感心する。
「よく知ってるなー」
「世良さんもジャンプくらい読んだ方がいいんじゃないですか。妹あんなだし」
最後の一言は兄として引っ掛かったが、前半の助言は前向きに検討しておくことにする。
「ねえ世良さん。今のままじゃ兄の威厳ヤバイんじゃないッスか」
「べ…別にやばくねぇよ!」
「同じ方法でアイツがまともか廃人か見抜く方法ありますけど、やってみます?」
悪巧み風に囁かれたそのアイディアは、即採用させてもらうことにした。
「穂乃香!これ何て読む?」
今日もリビングで悠々と寛いでいた穂乃香に携帯の画面を見せつける。
数日前とは逆の立ち位置。
でも俺の出題は小学生でも工夫なしで読める簡単な漢字ニ文字の熟語だ。
『平和って文字を読ませてみて下さい。多分世良さんもよく知ってる読みしますよ』
そんなの「へいわ」以外に読み方ないだろ。
逆にそれ以外の読み方をしたら穂乃香は廃人という意味なんだろう。
赤崎の悪い笑みと言い方がめちゃくちゃ引っ掛かるが、妹が正常な可能性に賭ける。
あと兄の威厳を取り戻す僅かな可能性。
穂乃香はしばらく画面を見つめてから小さく息を吐いた。
「……ピンフ?」
平和(ピンフ):麻雀の役の一つ。成立の為の条件は多いが使われる頻度高し。
「なに兄さん、数日前の仕返しか何か?」
そう言えばピンフって平和って書いたなーとか。
常識<麻雀になっている妹の頭の中を少し嘆いたりとか。
赤崎は全部分かってて俺にこの話もちかけたんだろうなーとか。
次に会った時の赤崎のドヤ顔が浮かんだりとか。
俺が大して良くもない頭をフル回転させてる間に、妹には全てがバレていた。
「いや、そうじゃなくて!」
そうなんだけど。そうじゃないっていうか。
赤崎にとっては予想内でも俺にとっては予想外だからまとまらないっていうか。
「俺が求めてた答えはそうじゃなくて、ラブアンドピース的なアレっていうか…」
そう、それだ。
俺は穂乃香から「へいわ」って答えが聞きたかったんだ。
「ラブアンドピースと言えば、今カ●ンの再放送やってるよね」
「え?何それ?」
「マリアちゃん可愛いよマリアちゃん」
ああダメだ。違う方向に会話が続いていく。つーか妹は例のごとく自分の世界だ。
「兄さんもカ●ン見たほうがいいよ。HDDに撮りためてあるから」
今日はよく何かを勧められる日だと思う。
だが俺も妹に常識を薦めたい。そうしたら赤崎のドヤ顔を見ずに済む。
「…それでこれは?」
「だからピンフ」
割ともうダメなのかもしれない、と諦めかけた瞬間だった。
------------
点数計算の時いつもピンフを数え忘れます。苦手ですピンフ(超個人的事情