それは妹と赤崎と、あと穂乃香の友達のおじさんと四人で麻雀をやってた時のことだ。
「チー」
親番でもないのに穂乃香が序盤から鳴くのは珍しかった。
俺以外の二人も同じことを感じたようで、少しだけ目を丸くしていた。
当の本人は俺ら三人の視線を気にすることもなく、チーして出来た順子をさらしている。
穂乃香はトイトイが好きだからポンはよくするけどチーは滅多にしない。
三色同順でも一気通貫でも、何でも面前で仕上げたがる。
その理由について前に聞いた時、食い下がりがどうとか、リーチがどーのこーの言っていた。
まあ例のごとく俺には難しすぎて分からなかったが。
「お前、阿知賀の中堅見て影響されたクチだろ」
「うっ…」
赤崎が言った台詞に図星を突かれたような反応を返す妹。
やっぱり俺にはよく分からないが、マージャンにそんな用語はなかった気がする。
「中堅なんて呼び方やめて。憧ちゃんだよ、新子憧ちゃん」
妹が人名らしき単語にちゃんという敬称を付け出した。
どうやら何かのアニメのキャラらしい、とそれで分かってしまうことが悲しい。
「憧ちゃんは本当に可愛いと思う。キャラデザが秀逸」
「中学生になってから垢抜けたよねえ」
「やっぱりそう思いますか!?」
まさかのおじさん会話参戦に妹のテンションが上がる。
それにシビレを切らしたらしい赤崎が騒ぎに紛れてツモを済まして打牌する。
「あ、それロン!」
穂乃香は意外にも見逃さなかった。
俺は感心すると同時に少しの恐怖を感じる。まあ赤崎は怒りしか感じないようだが。
「何でシャンポン待ちなんだよ。そこは赤ウー切ってリャンメンに取れよ」
人の待ちに文句を言い出した。俺には振り込んでしまった腹いせにしか聞こえない。
「リャンメンよりシャンポンの方が上がれる気がするの」
「そりゃ気のせいだろ」
その挑発気味の台詞で妹から上がりの余裕が消え、ムスッとした表情になる。
対して赤崎はいつもの…何と言うかポーカーフェイスだ。
「シャンポンは上がり牌4枚、リャンメンは合計で8枚。単純計算でも確率が2倍も違う」
「ケースバイケースだよ。実際はそんなに割り切れるものじゃないし」
いつものように二人の間で火花が散った。
「私は感覚派だからいいの!咲ちゃんと一緒なの!」
「じゃあリンシャンであがってみろよ。せこいロンなんかじゃなくてよ」
「一般人にリンシャン牌が分かってたまるか!」
もう雀卓もゲームも点棒もほったらかしで口喧嘩を始める二人。
でも内容は麻雀のこと…なんだよな?
はやく東二局を始めようと言いたい。でもとても口を挟める状況じゃない。
そんな中でやっぱり救世主は穂乃香の友達であるおじさんだった。
「じゃあ決着は麻雀で着ければいいじゃない。勝った方が正しいってことで」
口調こそ穏やかだが、言ってる内容は二人の喧嘩内容よりも過激だ。
しかし二人は納得したようで大人しく席に着いた。
(お前ら、ホントにそれでいいのか…?)
そして今まで以上に思惑渦巻くピリピリとしたゲームが始まったのだった。
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そしてどっちが勝ったのかは謎のまま尻切れトンボで終るのでした(ぇ
阿知賀編はクオリティ高いんだけど展開速いよ。もっと試合描写みたいっす。