あるところに『浦島ケン』というカリスマオーラ溢れる青年がおりました。

彼は人々から慕われ、絶大な人気を誇り、親しみを込めてケン様と呼ばれていました。
そんなケン様が近くの浜辺を散歩していた時の出来事です。

「スンマセンね、守備下手で。あれでも俺なりに頑張ってるんですけどね。これでいいですか?」
「う、うわっ…やめろ小森!」

亀が少年に妙な言いがかりをつけられ、蹴られていました。
あまりに一方的なその絵面はいじめ以外の何者でもありませんでした。

浦島ケン様は悪事や不正の一切を許さない男です。
しかし暴力的な解決を望まない彼は、そのカリスマオーラでまずは二人に話しかけます。

「コラ小森、佐倉をいじめたらダメじゃないか」

ケン様に小森と呼ばれた少年は亀を蹴る足を止めて振り返ります。

「だってこの亀が考えることってつまんないんですもん」

小森はケン様のカリスマオーラにも怯みません。
佐倉と呼ばれたその亀は、小森の気が逸れた隙に落としていた眼鏡を拾いました。

「そこら辺にしといてやれ。佐倉が可哀想だろう?」
「…………」

ケン様の言う通り、拾った眼鏡をかけ直す亀の姿はとても惨めでした。
それを見た小森は渋々と言った様子ではあるけれども、踵を返すのでした。

「…ヘタレ」

すれ違い様に呟かれたその言葉に亀は大きく反応しましたが、ケン様は特に気にしません。
そして浜辺にはケン様と亀の二人だけが残されたのでした。

佐倉は「あの蹴りは絶対に本気だった」とかブツクサ言っていましたが、ケン様は人の独り言には反応しない主義なのでスルーしてあげました。

「さあ佐倉、君には帰ってすべきことがあるだろう?」

ケン様が帰るように勧めると、佐倉はようやく正気に返って立ち上がりました。

「助かったよケン。お礼に竜宮城に招待しよう」

自分の役目を思い出して興奮した様子の亀は、ケン様の返事も聞かずに語り出します。

どうやら竜宮城というのは亀の住処で、海の中にあるそうです。
しかし、亀は運動神経が壊滅的だったので人を乗せて泳げませんでした。

それでも説明は上手だったので、竜宮城への道のりを分かりやすくケン様に教えました。
人の厚意を決して無碍にしないケン様は一人で竜宮城に行くことにしました。


*** *** ***


「竜宮城にようこそ!」

佐倉の説明通りに進み、ケン様は無事に竜宮城に辿り着きました。
そこにあったのはいかにも張りぼてっぽいお城でしたが、ケン様はあえて聞いたりしません。

「穂乃香は乙姫じゃないのか?」
「私はお迎え役ですよー」

ケン様は代わりに違うことを聞きました。
小森と同じくカリスマオーラにクラクラしない穂乃香はさらりと流しました。

「一人でここに来られたということは、もしかして佐倉監督を助けてくださったんですか?」
「ああ、そうなるな」
「どうも有難うございます。あれでも一応、私達の総司令官なんですよ」

穂乃香の言葉にケン様は「知ってるさ」と華麗に返します。

「彼がいかに優秀な司令官か、俺も皆も、小森だって分かってる」

ケン様と穂乃香は微笑み合います。
そんな会話をしている内に二人は大きな扉の前に着きました。

「乙姫様、監督を助けてくれた恩人様をお連れしましたー」
「来たか…」

ノックもなしに部屋に入った穂乃香に不快感を示すこともなく、部屋の主はゆっくりと立ち上がりました。


「なんだ、ラスボスはお前か? メンデス」


ケン様にメンデスと呼ばれた乙姫様は、その発言には眉間にしわを寄せました。

「確かにこの城の主ではあるが敵ではない。我々は味方だろう」
「だったらお前が乙姫か?」
「そうだ」

人手不足なのであろう城は閑散としていて、おもてなしといった雰囲気でもありません。
装飾品もない殺伐とした白い部屋に、二人の男の重い沈黙が横たわります。

「じゃあ俺はそろそろ帰るとするよ」
「待て、ケン」

颯爽と引き返そうとしたケン様を乙姫であるメンデスが呼び止めました。
ケン様は立ち止まり、メンデスにカリスマの笑顔を見せました。

「玉手箱でもくれるのか?」
「タマテバコ…。確かに、ここには以前そういう風習があったそうだな」

メンデス乙姫はため息混じりに呟きます。
しかし、その後に力強く「だが」と言ってつなげました。


「我々が統治する竜宮城では、恩人に対するそのような無礼は許さない」


新しい乙姫は真面目でした。
総司令官である亀の佐倉を助けた恩人に、中身不明の謎の箱を渡すのは無礼であると捉えたのです。
メンデス乙姫はそんなワケの分からないものではなく、必ず役に立つものをくれると言います。


「穂乃香を連れて行け」


ずっと入り口に控えて二人の会話を聞いていた穂乃香を視線で指し示します。
これには流石のケン様も笑顔のまま固まってしまいました。

「気に入らないのなら他の者を用意しよう」
「…いいや、ありがたく貰って行くよ」

沈黙を否定と捉えたメンデス乙姫の勘違いを、ケン様は優しく制しました。


「こういう子がちょうど欲しかったんだ。俺の所属するクラブにね」


ケン様は穂乃香の腰に手を回して抱き寄せます。
カリスマオーラが効かないはずの穂乃香が顔を赤くしてしまったのは、一体どういう理由でしょうか。

その理由も彼らのその後も、神様だけが知っています。



「ちょっとケンさん!台本と違うところが多すぎッスよ!」
「ハハ、そうだったか?」

その後に彼らのクラブが繁栄できたかどうかは、彼らの頑張り次第でしょうか。



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乙姫メンデスが気に入っています。だから彼の退場後は展開がいいかげ(ry


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