「はらへったー」

わざとらしく机に突っ伏して隣の恋人にアピールする。
穂乃香はそんな俺を見て読んでいた文庫本を閉じた。

「じゃあ、私が力のつく夜食を作りますよ」

穂乃香の関心を引きたかっただけの行動だったが、その反応は少しばかり意外だった。


「どうして達海さんまでキッチンに?」
「少しの好奇心と大きな不安」
「…そうですか?」

俺の言葉に拗ねるような様子も見せず、穂乃香はテキパキと用意を進める。
逆に俺が拗ねたくなった。

「ではまず追いがつおつゆを適量、そして適量のお砂糖を混ぜます」
「適量じゃなくてテキトーの間違いだろ」

穂乃香なりの気遣いなのか、テキトーな説明つきの調理が始まった。

「砂糖が溶けたら水で少し薄めて、お鍋に入れて火にかけます」

そう言いながらお椀がいっぱいになるくらいの水を入れる。絶対に少しって量じゃない。

「完全にかさ増しだよな?」
「…………」

俺のツッコミは図星なのか、無視された。

「沸騰するのを待つ間に卵をときます。一人一個が適量です」

穂乃香が卵を二つ割る。ちゃっかり自分の分も作っていたことをここで初めて理解した。
そして、ここまでの過程で完成形も大体見えてきた。

「何となく先が見えてきたんだけど」
「あ、沸騰したのでといた卵を入れますね」

またスルーされた。
さっきは図星なのが分かって面白かったが二度目はあまり面白くない。

「なんとなく円状になったのを確認したら素早くお鍋に蓋をかぶせます」

言葉とは裏腹に、穂乃香は緩慢な動きで蓋をかぶせる。


その少しの時間がもどかしい。


金属と金属が触れ合った独特の音を合図に、俺は穂乃香を後ろから抱きしめた。

「……達海さん?」
「…………」

状況を理解できてない穂乃香が俺を呼ぶけど、首筋に顔を埋めて返事はしない。

その状態でどれくらいの時間が経っただろう。
多分だけど一分ちょいくらい。体感時間はそれよりもう少し長い。

穂乃香は深く息を吐くのと同時に火を止めた。

「スピード重視のメニュー選択だったのに…」

至極残念そうに呟く。
色々な感情が混ざってそうなその呟きを聞いて、俺はようやく顔を上げる。

「重視するとこが間違ってんの」
「だって達海さんがお腹が減ったなんて言うから…」
「俺の言葉を額面通りに受け取りすぎ」

欲しかったのは夜食じゃなくて、穂乃香との触れ合いだ。

「もう、私にどうしろって言うんですか…」
「こーしろって言ってんの」
「…!」

不機嫌の色を見せ始めた恋人の唇をふさぐ。
間違いも反抗も出来ないように、いつまでも舌を絡ませた。


*** *** *** ***


穂乃香を美味しく頂き、穂乃香の料理も美味しく頂き終わった後。

「どうでしたか?」

すっかり機嫌の戻った穂乃香が料理の感想を聞いてくる。

本人も料理名を知らない謎料理らしいが、味は悪くはなかった。
だだ、率直な料理の感想よりもある一言がいいたい。

「白いご飯が食べたくなった」
「あはは、これ食べた人はみんなそう言いますよ」


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この二人は管理人の意思を無視して勝手にイチャつきはじめるので困ります。
料理は私がよく作るお手軽料理。…親子丼風スープ?


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