「赤いハイヒールを履いた美女に踏まれたい願望があるでしょ?」

悪徳占い師のような口調。
そして脈絡もない話題をいきなり出してくるのが俺の妹だ。

「土下座した頭にヒールがぶっ刺さるくらいの力で踏んでほしいよね?」
「どんな嗜好だよ!」

軽くなら分からんでもないとか思ってしまった数秒前の自分を殴りたい。
ていうか、妙なことを口走る妹の頭も殴って正常に戻したい。

「別に兄さんがドMとかじゃなくて、これは誰にでもある願望でしょ?」
「何さり気なく俺にしてんだよ!お前だけだろ!」

頭にヒールが突き刺さるなんて絶対に嫌だ。
だってヒールってあれだろ。地面と接するとすごいイイ音が響くアレだろ。

少し想像しただけでも悪寒が走る。
痛みとは通年の付き合いだけど、それだけは絶対に嫌だ。
これは俺だけじゃなく、世の中のほとんどの人がそうだろう。

そしてこれはいつものことだが、その『ほとんど』に妹が入っていないことが悲しい。

「兄さんなら分かってくれると思ったんだけどな」
「…何で俺?」
「血がつながった私の実の兄だから」

うっわ、すっごく嬉しくない。
この世で一番強固と言われている絆をこれほど嫌だと思ったのは初めてだ。


「兄さんだけが頼りだったのに」


かと思えば、呟かれたその一言にあっさり心が動かされたりする。
頼れる兄貴を目指している俺は、妹からのこの言葉にどうしても弱い。


「……軽くなら…分からなくもない…」


負けた。何かに負けて何にも勝ってない。

「軽くって?」
「…頭にヒールが突き刺さるとかは無理かも…」

かも、じゃなくて本格的に遠慮したいんだけど、言葉に出すと何故かやわらかくなる。


「なるほど!踏まれているという屈辱感を味わいたい感じ?」


もうどうにでもなれ。
と放置することは俺の今後の立場的にもプライド的にも出来ないので。

「ディープな方向に持ってくな!俺ノーマルだし!」
「痛っ」

当初の予定通り、妹の頭を殴っといた。


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久々の小ネタ更新なのですが…なんだコレ。
これはきっと世良さんに頭を殴ってほしかった話なんです。あれ、結局はM的願望?

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