「監督って外国行ってたんだよな」
「イギリスですよ世良さん」
「じゃあきっと英語とかもペラペラだよな」
「喋れなきゃ生きてけないですよね」

椿と赤崎からバカにしたような相槌を打たれる。
俺はキレた。

「だーっ!お前ら先輩に向かって冷静なツッコミすんな!」
「それパワハラですよ」
「まだ体育会系の域から出てない!」
「あの、話しが進んでないッス」

椿が気まずそうに、だがやはり冷静にツッコミを入れる。

「そんで何で英会話なんです?」

いちいち切り替えの速い赤崎に内心ムッとしながらも、俺は話を進めた。

「今日来る時さ、観光客っぽい外国人に道聞かれて」
「聞かれたのホントに道?」
「馬鹿にすんなよ赤崎!地図持ってたから間違いねえよ!」
「せ、世良さん…落ち着いて」

椿に宥められて取りあえず一回落ち着く。
そしてまた、俺より赤崎の切り出しの方が速かった。

「英語が出来ない世良さんはどう対応したんスか?」

体内の血が一気に逆流するほどの怒りを感じたが抑える。

「……身振り手振りで」
「別に小声になんなくてもいいですよ。分かってましたから」
「お前マジ殴るぞ!」

赤崎の方へと身を乗り出した俺を、椿が体を張って止める。
難なく止められたことに腹が立ったけどショックも大きくて俺は黙った。

「このままじゃ終わりそうにないんで結果だけ話して下さい」
「……ダメだった」
「はあ?」
「伝えらんなかった。知らない場所じゃないのに」

日本語が通じる相手なら困ることなく教えてあげられた。
だから余計に悔しかった。

今さっき赤崎にバカにされた時より、ずっとずっと悔しかった。

「世良さんってバカでしょ」
「どこがだよ!」
「全部。一回のことで気にしすぎ」

確かに今日はたまたまで、もう聞かれる機会なんてないかもしれない。
それでも嫌だ。

「俺が知ってることなら教えてあげたいし、言葉知らねえってだけで諦めんの嫌なんだよ」

諦めるのだけは嫌だ。
目の前のゴールにも、困ってる人を助けるのにも、言い訳はしたくない。

「いい心掛けじゃん。世良」
「監督!」

褒められたことよりも監督の神出鬼没っぷりに驚く。
椿は俺以上にビビッてて、赤崎は相変わらずのポーカーフェイスだ。

「それにな、英語喋れると女にモテる」
「マジッスか!?」
「…んなワケないっしょ」
「頑張って下さいッス世良さん!」
「お前もやるんだよ、椿」
「…え」

話の矛先が椿に変更されていく中、俺は英会話を習い始めようと決意を固めた。


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実はこんなやり取りがあの話の前にあったという設定。
いきなり世良さんが英会話とか意味不明すぎましたよねごめんなさい。

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