お母さんがカゼをひいた。

お父さんは自分がお昼ご飯を作ると言ってざいりょーを買いに出かけた。
いつもと同じでいーかげんな背中を見送った。お父さんはどんな時もいーかげんだ。

「お母さん大丈夫?」

そんなお父さんをはんめんきょーしに育ったわたしはちゃんとお母さんを心配して顔を出す。
お母さんの辛そうなセキにむかえられた。

「心配かけてごめんね。こんな咳とかしてるけど、大丈夫だから」

全然だいじょーぶじゃなさそうだけど、きづかいができるわたしは言わないでおく。

「お父さん買い物に出かけちゃったよ」
「知ってるよ。出て行く時に私にも声かけてくれたから」

へー、いちおーそーゆーやり取りはしてるんだ。

「お父さんが出かけちゃって寂しい?」
「っ全然そんなことない!」
「…そう?」
「そう!」

予想のななめ上くらいからのお母さんの質問にあせっただけで、全然ずぼしとかじゃない。

「うん、ごめんね」

お母さんが目を閉じて小さくあやまる。
ずぼしって決めつけられたみたいで、はずかしくて、いごこちが悪い。

わたしはお母さんを見るのをやめた。
するとお母さんのとなりにあるお父さんのベッドがぐちゃぐちゃしていることに気付いた。

「お父さん布団そのままにしてるー」

いつもわたしにはちゃんとかたづけしろとか言うくせに、自分ができてない。
のろのろと起き上がるお父さんが想像できそうな形になってる布団をぽんぽんとたたく。
その音といっしょに、お母さんがくすっと笑うのが聞こえた。

「それは私が寝てると思って気を遣ってくれたんじゃないかな」
「…お父さんが?」

あのお父さんに一番あてはまらなさそうな単語がお母さんから出てきた。

「そうだよ。お父さんが優しいの、知ってるでしょ?」

ぜんぶ分かってるって感じでお母さんに言われるとこそばゆい。

「…分かんない」
「そう?」
「この前お父さんにウインナー取られたもん…」
「それは…後でお母さんから言っておく」

カゼで元気のないお母さんがもっとつかれた感じでつぶやく。
言ったのはウソじゃないけど、お母さんにもお父さんにも悪いことをした気がした。

「よっ、ただいまー」

まるでねらったようなタイミングでお父さんが部屋に入ってくる。

「おかえりなさい」

お母さんがそう言う。でもわたしは言わない。それよりも先に言うことがある。

「お父さん…ホントに買い物してきたの?」

家を出てった時と同じで手ブラのお父さん。にもつを置いてきたふんいきもなかった。

「それが途中で頼れるアドバイザーに会ってな、家にある材料で足りることが判明した」

いつものいーかげんな笑顔。お母さんもそれにあきれかげんな笑顔でこたえた。

「ETUで一番の料理家にアドバイス聞いてきたから任せとけって」
「…堺さんでしょ。元気になったらお礼しなきゃね」

お母さんがベッドから立ち上がろうとする。それをお父さんが止めた。

「だから俺に任せて寝とけ」
「いまいち不安だなあ…」

「わたしが手伝うから、お母さんはねてて」

わたしは腕まくりをして見せる。お父さんにらんぼーに頭をなでられてイラついた。
それからお父さんはお母さんのおでこに自分のおでこを合わせる。

「娘と夫がそう言ってるんだから、大人しく従いなさい」
「…はーい」

お母さんが子どもみたいな返事をすると、お父さんの横顔はうれしそうだった。

こういう時に何も言わないでおくのがきづかいなのかと静かに学んだ。


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本当は娘を幼稚園くらいにしたかったんですけど、それにしては漢字とか言葉を知りすぎなので小学2〜4年生くらいの設定で。

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