読書においての天敵は騒音だと思う。
だって図書館では静粛にするのが絶対のルール。
少しの音でも嫌がられるんだから、私のこの定義はちゃんとした客観性を持っている。
「俺も読書してみたい!オススメの本教えて!」
騒音と言っては失礼だけど、読書の時は少しうるさく感じる。
そもそも恭平くんの隣で読書なんて始めてしまったのが間違い。
そうは分かっていても、やはり中断された時の不快感は何にも勝る。
視線で鬱陶しさを表現してみると目の前の恭平くんは少し大人しくなった。
「俺でも読める本教えて?」
それでも主張はやめない恭平くんに、出たのは溜息だったのか何だったのか。忘れた。
何を教えてあげたのかもよく覚えてない。
ただ一つの事実として、次に会った時から恭平くんが私の隣で本を読むようになった。
恭平くんの口数は圧倒的に減ったけど、どこか落ち着きがない。
どうにも集中できない様子がこちらにまで伝わってきて、私まで気が散る。
「この漢字ってなんて読むの?」
とても私より年上とは思えない質問を平気でしてくるからビックリする。
しかもそれがしょっちゅうだから私の読書は妨害されて仕方ない。
私はカバンの中から自分用の電子辞書を取り出して、貸してあげた。
「この機能はどうやって使うの?」
その質問に、今度は無言で取扱説明書を差し出した。
恭平くんはそれを嫌そうにじっと見て受け取らない。不服の感情を露にしている。
「あのさ」
「……なに」
「本読んでる時さ、俺に冷たくない?」
私は受け取り手のない取扱説明書を持った手を下げる。
そして不機嫌そうにする恭平くんにこちらも不機嫌で返した。
「読書は静かにしたい」
恭平くんも自分がしてみたら分かると思うんだけど、どうも納得いかないみたいな様子。
「俺は話したいの!喋りたいの!」
果ては年甲斐もなく叫び出す始末だ。私は今度こそ意識してため息を吐いた。
私は本が好き。恭平くんは本が嫌い。ただそれだけの差だ。
好きな人と一緒の空間で好きなことをしていたい。それは私だって変わらない。
恭平くんの不可思議な一連の行動に納得がいってしまったから、今回は私が折れる。
「…この本よりも面白い話なら聞く」
「まっかせといて!」
恭平くんの意気込みに期待して、栞を挟まずに本を閉じた。
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ちょっとひどいヒロインちゃんでした。こういう子が大好きな私の趣味モロだしな話(爆)