ほぼニートと化している世良妹が久し振りに登校した時の出来事である。

「美少女ゲームは乙女ゲームより優れてるよ」

学校内での唯一の味方とも言える委員長の趣味を話しの流れから否定してしまった。
そこから学校史に残るほどの、休憩時間を大きくはみ出す論争は勃発した。

「世良さん、それは聞き捨てならないですね」
「聞き捨てならないのはこっちだよ委員長。反論の余地なんてない」

数分前まで仲良く話していた二人が、たった一言で火花を散らすまでの険悪な雰囲気になる。
オタクの友情とは実に危うげなバランスで保たれているのである。

「エロゲーが完成品なら乙女ゲームはまだ発展途中。様式が完成されてない」
「そんなことはありません。王道こそが乙女ゲームです」
「エロゲ界では王道は逆に古いの。そんなことやってたらユーザーに叩かれるよ」
「だから超展開に逃げるライターが多いわけですか?」
「なっ…!?」
「行くとこまで行って万年ネタ切れ状態のエロゲ界なんてもはや見るに耐えません」
「おっとチュア●ルソフトの悪口はそこまでだ!」

静まり返るクラスの中で誰かが「角砂糖もな…」と小さく呟いた。
そんな呟きも白熱する二人の議論の中に吸い込まれていく。

「超展開なめんな!マドマギの宇宙を越えた友情を見ろ!」
「貴女が熱を入れていたエ●リセなんて最終回で月が消えましたよね?」
「その設定は次作でも好評継続中だよ!」
「ヒットすれば超展開も認めるとおっしゃるのですか?」
「最●試験く●らはヒット作だ!」

教室にいる誰もが会話を止めてそれに聞き入る。
否、知りもしない単語が飛び交うこの議論を聞かざるを得ない状況を二人が作り出している。

「乙女ゲームは演出がワンパターンなの!CGの構図もキャラのドアップだけじゃない!」
「何年前の話しをしているんですか貴女は!」
「数年前のゲームで得た知識だけど今もそんなに変わってないはずという仮定で話してる」
「全国の乙女ゲームメーカーに謝りなさい!」

今にも殴り合いに発展しそうな白熱具合だが、彼女達は頭脳労働のみなので大丈夫だ。
だがオタクというものをまるで分かっていないクラスの人間は右往左往する。

「乙女ゲームは可能性です。惰性とパロネタに溢れた進化の余地のないエロゲーとは違うんです」
「日常シーン総カット、イベントシーンだけで構成される乙女ゲームに言われたくない」
「だからいつの話しをしているんですか!」

そこから更に議論は発展していった。時計も先生の存在すらも無視して繰り広げられた。

「第一、初期のエロゲーなんて見れたものではないじゃないですか」
「エロゲはパソコンの進化と共にある。それより遅く生まれた乙女ゲームは口を挟めない」
「その歳で古参アピールですか?」
「何とでもどうぞ。大器晩成型の乙女ゲーム信者さん」

最新の時事ネタを取り入れたかと思えば、一気にエロゲ創世記まで時代を遡る。
そんな幅広い知識の応酬についていけるものは普通学校には誰一人としていなかった。
そして最大の不幸は、そんな彼女達を止められる教師が存在しなかったことである。

彼女達のバトルは放課後になっても暫く続いたらしい。
しかし彼女達のその後、勝敗がついたのかどうかを知る者は誰一人いない。

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久々にこういうの書けて面白かったです。侮辱じゃないよ、愛故だよ。

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