「お前って恋人とかいんの?」

東京Vの王様は今日も自ら好んで地雷を踏む。
もう一種の趣味なんだろうと、クラブに関わる人間は共通理解している。

ただ、ちょっかいかけられている張本人だけが分かっていない。

「いますよ」

意地で虚構を返したとしか思えない表情で、苦々しく吐き捨てるように呟く。
そういう反応が持田さんの加虐心を煽るようだった。

「へー、どんな男?」

字面こそ肯定なのに込められた感情は否定を前提としているような、怒りを煽るだけの返答だ。
煽られた方は感情を押さえ込むように深呼吸をする。

「有名人です。持田さんより」

その発言は場の緊張感を一気に高めた。
簡単に言うと、更に険悪になった。いつもより深刻な空気になって周りも焦る。

「子どもから大人まで知らない人はいないし、大人気です」
「ふーん」
「毎日会えるし、たまに離れてもすぐに戻ってきてくれるんです」

本当にその人が好きな恋する乙女って感じでその恋人を語る。
俺から見れば普通に微笑ましいが、持田さんが怖すぎるのでフォローしとく。

「…それって矛盾してませんか?」
「しないよ。それに離れていっちゃうのは私が悪いんだから」

吐き出される悩ましげな溜息と共に状況が悪化していってることに気付いてほしい。

「サイテーな男に惚れてんだな」
「そんなことないです。すごい包容力なんですから」

俺の時とは違って持田さんには強固な態度を取り続ける。
それは今まで割とブレたことはなくて、持田さんも慣れてるのかとても冷静だ。

「そんでソイツの名前は?」

さらりと言われたジョーカー的発言にハッとする。
そんな有名人なら俺達も名前を聞けば分かるはずだ。その場の全員で息を呑んで待った。


「福沢諭吉さん…です」


数秒沈黙。一番速く理解したのは大声で笑い出した持田さんだった。


「…言ってて悲しくならないか?」
「まともなツッコミやめてください城西さん!空気読んでください!」

真っ赤な顔で城西さんをポカポカと力なく殴っている彼女の精一杯の嘘に同情した。

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順調に意味不明な小ネタページです。
いつまでたっても三雲くんのキャラが掴めない。でも彼視点じゃないと東京Vは書けない矛盾。


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