なんとなく元気がなさそうだ。というのが俺のなけなしの言語能力を総動員した所感。

「何かあった?」

自分の頼りない勘を信じ、思い切ってそう聞いてみた。
それに応じて、なんとなくうつむき加減だった顔が上げられる。

「ご心配をおかけしてしまってすみません…」

ただでさえも元気がなさそうなのに俺の発言で更にしゅんとなってしまう。
しまった、聞き方が悪かったか。

「体調とか悪い?」

言い方を変えてみると目の前の女の子はゆっくりと自分の額に手を持っていく。
そしてやはりゆっくりと離した時、手だけじゃなく頭までも重力に逆らわずに少し傾く。

結局うつむき加減が標準になってしまった彼女は俺を見ないまま元気なく呟く。

「最近…なんとなく元気が出ないんです…」

吐き出す息のほとんどが声になっていない感じ。俺は本気で心配になる。

「なんとなくやる気が出なくて、なんとなく力が入らなくて、なんとなく気だるいんです」

ありったけの心配が別の感情になっていく。
なんとなくが多すぎる説明。そしてその症状にはなんとなく聞き覚えがある。

「……五月病?」

魔法使いがまさかそんなとか、ちっぽけな常識を取り払えば当てはめは可能だ。
むしろ思い当たったらソレしかない。ちょうど時期的にもぴったりだ。

「それはどんな病気なんですか?」
「なんとなく何もしたくなくなる病気…かな」

君が感じてる症状そのまんまの病気ですとは本人を目の前にして言えない。

しかし、本当に五月病にかかる人なんて初めて見た。
俺の周りには今までいなかったし、俺自身も聞いてはいたけどなったことはなかった。

「すみません。そんな病気になるなんて…私なんだか情けないです」

セリフにいつもの元気が全く感じられない。
やっぱり心配だ。いつも元気でいてほしいと思うのは俺のワガママなんだろうか。

「大丈夫!この国の人間はこの時期になると皆そうなるから!」
「でも、世良さんはかかってませんよね?」

痛いところを突かれた。

確かに俺は五月に元気がなくなる心理はよく分からない。
どっちかと言うと、六月の梅雨の時期の方がジメジメしてて元気が半減する。

あれ、これじゃね?

「俺は来月に多分なる!」
「来月と言うと…」
「六月病!」

そんなのは聞いたことがないけど、敢えて名前を付けるとしたら絶対にそうだ。
苦しすぎる逃げ道も興味を引くことには役立ったようで、彼女の目に少しだけ生気が戻る。

「そうだ、お菓子もらったんだけど食べる?」

俺は彼女が顔を上げた瞬間を逃さずに、すかさず新たなモノで惹きつける。
多少こどもっぽいものが彼女のツボなんだと最近分かった。

「…はい!」

あの手この手でやっと少し元気になってくれた女の子に、袋に入った菓子を手渡した。


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ヒロインちゃんは五月病か、それとも無意識のうちに構ってほしかったのか。
個人的には後者だとなんか嬉しいです。

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