事件は会議室ではなく、ETUクラブハウス内の女子トイレ(とその周辺)で起きていた。

「どうかしたの?」

ETUの広報である有里は鏡の前でやたらズボンを気にしている同僚に声をかけた。
その可愛らしい同僚は心配げな様子の有里にはにかんだ。

「ズボンがなんだか緩くて」
「そうなの? ごめん、今日はベルト持ってないや」
「いえ、大丈夫です」

どこにでもある有り触れた女子同士の会話。


丹「ズボン緩いとかさりげにエロくない?」
世「エロいッス!」


それを外で聞いている男が数名いた。

彼らの名誉の為に言及すると、彼らは取り立てて変態というワケではない。
たまたま通りかかった所に聞こえた興味深い会話にただ足を止めただけだった。

椿「あ、あの、こんなことやめたほうが…」
石「じゃあお前だけ退場な」
椿「ええっ」
赤「お前ってムッツリなんだな」
世「それは赤崎もじゃね?」
赤「アンタはオープンすぎなんだよ」

外でこんなことを話されているとも知らずに、女子達の会話は続く。

「その割にはやけに気にするわね?」
「実は下着も緩くて…」

聞かれていると知らないのだから当然そんな爆弾も自然に投下されるわけだ。

石「これはヤベーだろ!」
世「うわーっ椿が鼻血出した!」
赤「思春期かっての」
丹「いやあ、俺は気持ち分かるぜ?」
赤「アンタも思春期なんですか」
丹「そこまで若くねえって。だけど男のロマンは年齢カンケーないだろ?」
世「激しく同意ッス!」
赤「アンタは少し落ち着け」

ここまでの会話は大人の男達のこそこそ話しである。

「一体どうしたのよ?」
「最近ちゃんと食事とれてなかったからそのせいかも…」
「あー忙しかったもんねー」

壁と扉越しに聞こえたいた声が段々と直接的な響きになっていく。
それを敏感に察知した選手達はパニックで固まった。


「今日はなんとか我慢して明日からちゃんとします!」


決意に満ち溢れたその言葉は直接彼らの耳に届いた。
扉は有里によって開けられ、声だけではなく姿まできちんと確認できる。

「何やってるの?」

当然の流れで有里は問うた。
真実を言うワケにもいかなく、いい言い訳も浮かばないメンバーは誰も答えられなかった。

「お前ら何やってんの?」

選手達にとって救世主的な存在が現れた。
いつもと変わらず飄々と現れた達海は何かを手にしていた。

「これあげる」

この状況を作った直接の原因とも言える彼女に達海は何かを差し出す。
全員が注視したところ、どうやらベルトのようだった。

「このベルトどうしたんですか?」
「後藤から強奪した」

彼女は不思議そうな顔をしながらもベルトを受け取ろうと手を伸ばした。
だが次の達海の一言で硬直した。


「ズボン緩いんでしょ?」


彼女のみならずその場にいた全員が動きを止めた。もちろん固まった理由は男女共に別だ。

「どうしてそれ…知って…!」

羞恥から顔を真っ赤に染めた彼女は不安からか落ち着かない様子で周りを見渡す。
彼女と目が合うと選手は全員顔を逸らした。彼女はますます真っ赤になった。

「アンタたち…」

いち早く全ての事情を悟った有里が腹から声を絞り出す。

「最っ低!!!!!」

クラブハウス中に響き渡ったその声は、皮肉にもこの事件を広めてしまう結果になる。


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昨日に引き続き長くてすみません。
そしてこんな文体で書いてみたかった第二段でした。しかし達海さんは神出鬼没(笑)

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