クラブハウス内の俺の部屋で二人きり。といっても色気もナニもない。

俺は次の試合の対策を練るために対戦相手のビデオを見てる。
アイツはスケッチブックに何か描いてる。

一緒にいるのに一言も喋らないという面白くない状況だ。いつものことながらつまらない。

「なーなー」
「はい?」
「スカイツリーってもう完成したの?」
「えっと…どうだったでしょう…」

会話が止まって再び無言になる。
かけっぱなしのビデオの音声と何かをサラサラと描く音だけが空間を満たす。

「なーなー」
「はいー」

ついに返事も上の空になった。それでも一向に描く手は止めない。
俺はコイツとコミュニケーションをとるのを諦めた。


「そういえば、少し前に目標の高さに達したって聞きました」


俺が諦めた三十分後にやっと質問の答えが返ってくる。
今度こそ鉛筆を持つ右手を止めて俺をニコニコと見るソイツにため息が出た。

「お前と話してると一昔前の国際電話を思い出す」
「時間差ってことですか?」
「分かってんなら改善しろよー?」

釈然としない気持ちを込めてデコピンしてやった。


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私の祖父母はよくこんな風に時間差会話してます。そしてその遺伝子は私にも。
頭の中で複数の考え事を同時進行かつ並行してやってると返事って時間差になっちゃいます。

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テーマ「人外ファンタジー」
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