好きって3回唱えたら。 | ナノ
第2.6日


「お前、今日はどうしたんだよ」

「どうもしてないッス…」


結局、その後の練習は集中しきれなかった。
コーチに怒られまくったし、仲間にも相当迷惑かけた。


『とにかく待ってて。魔法とかは使わなくて良いから』

『でも…』

『必要になったら呼ぶから!』


俺は間違ったことは言ってないはずだ。
だけど、何でか罪悪感でいっぱいなんだ。


「何もなくてアレじゃ困んだよ。悩みがあるなら言え」

「堺さん…」


相変わらず言い方は厳しいけど流石は年長者だ。
堺さんなら良いアドバイスをくれるかもしれない。


「外国から…日本が大好きな女の子が来てるんス…」


事実とは大分違うけど、大筋はそんな感じだ。


「はあ? 明後日に試合あんだぞ」

「それは…分かってますけど…」


さっきからの罪悪感と相俟って頭の中がごちゃごちゃになる。


試合に勝ちたい思い。
夕月ちゃんに何かしてあげたい気持ち。


昨日出会ったばかりの彼女に、俺は何をしてやれる?
何をしてあげたいんだ?


「浅草案内してやりゃ良いだろ」


溜息交じりの、あまりにも当たり前の提案が妙に新鮮に感じた。
何で俺は真っ先に思いつかなかったんだ。


「わざわざこの国を見に来たんだろーが」


その言葉にハッとする。


この世界が憧れだった夕月ちゃんに、俺は何て言った?


自分に余裕がないからって突き放した。
最低だ。


出会って間もなくたって。
恋人じゃなくたって。


『私があなたの願いを3つ叶えます!』


多少変な出会いでも。


どんな形であれ、関わった人に何かしてやりたいのは普通だ。
俺はその当たり前を放棄したくない。


一日中感じていたモヤモヤはこれだったんだ。


「堺さん、アザッス!」


気付かせてくれた堺さんに礼を言って駆け出す。


いまからでも間に合うだろうか。
俺は全速力でクラブハウスの出口を目指した。


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