好きって3回唱えたら。 | ナノ
第2.4日
結局五分の遅刻で、俺はコーチからこっぴどく叱られた。
「何やってんだよ世良」
「堺さん…」
先輩である堺さんが、半ば咎めるような雰囲気で近寄ってくる。
俺は果てしなく憂鬱な気分だ。
「寝坊か?」
「…そんな感じッス」
「情けねえな。自己管理はしっかりしろよ」
ありのままを話すわけにはいかない。
夕月ちゃんに口止めはされてないが、話せば俺が不審者になる。
「珍しいッスね」
後輩の赤崎が横から話しに入って来た。
コイツは今日も偉そうだ。
「俺には俺の事情があんの」
「どんな事情ッスか」
破壊的な魔法少女がいきなり家にやって来る事情。
なんて言ったら、この生意気な後輩は鼻で笑うに違いない。
俺は喉まで出掛かった言葉をぐっと堪える。
「世良さん、魔法が必要でしょうか!」
「さっきは必要だったけど今は必要ないかな」
「は? 何の話ですか?」
赤崎の声でハッとなる。
俺はまさかと思いつつも、声がした頭上を見てみた。
「さっきとはいつのことでしょうか?」
「〜〜っ!」
魔法少女らしく、当たり前のように宙に浮いている夕月ちゃん。
俺はその手を掴んで引っ張った。
「世良さん、練習始まりますよ」
「トイレ行ってくる!」
呼び止める赤崎に嘘の言い訳をして、人目につかない場所に移動する。
夕月ちゃんは不思議そうにしながらも歩いて俺について来た。
「なんで夕月ちゃんが居るの!?」
「いつ魔法が必要になるか分からないですし…」
「大丈夫だから家で待ってて!」
「でも、さっき必要だったって…」
弱腰ながらも決して退かない夕月ちゃん。
時間もないし、俺が折れることにした。
「分かった。練習が終わったら一緒に帰ろ」
「何の練習ですか? 私もお手伝いできますか?」
俺、そんなに説明してなかったっけ。
それは反省するけど、説明している時間はない。
「俺以外に姿は見えないんだったよね?」
先ほどの赤崎で実証済みではある事実。
だけど一応確認すると夕月ちゃんは頷いた。
「とにかく待ってて。魔法とかは使わなくて良いから」
「でも…」
「必要になったら呼ぶから!」
ちょっと強めにそう言うと、渋々といった感じで夕月ちゃんは了承した。
「世良ー遅いぞー!」
「スイマセン!」
とにかく頭を切り替えないと。
そう思いながらグラウンドへと戻った。