好きって3回唱えたら。 | ナノ
第2日
テーブルの上に置いた携帯のアラーム音で頭が覚醒する。
だけど、まだ布団から出たくない。
「わわっ…これは何でしょう…」
そうだ、今日は練習があるんだった。
早く起きて支度しないと。
「世良さん、起きて下さい。何か変です」
布団の上から控え目な衝撃が伝わる。
時間が経つにつれ大きくなるアラーム音が、怯えの滲む声を消した。
「せ、世良さん…」
「ああもうわかった!起きるから!」
現実逃避は止めて、俺は布団をどけて起き上がる。
そこには美味しい朝食があるわけでもなく、可愛い恋人がいるわけでもなく。
「…どうしたの」
「これ…怖くて…」
涙目で震えながら、携帯電話に怯える魔法少女がいた。
*** *** ***
昨日、俺の家の窓ガラスを豪快に破壊した女の子。
彼女はこことは違う世界から来た魔法使いだと名乗る。
それでいて俺の願いを3つ叶えてくれると言う。
「とりあえず、この窓ガラス直してもらえるかな」
「それが一つ目の願いでしょうか?」
「まあそうなんのかな」
「分かりました、お任せ下さい!」
自信満々にそう言った彼女は、壊れた窓を見事に元通りにした。
半信半疑だった俺はすっかり驚かされた。
成り行きとは言え、一つ目の願いを叶えてもらってしまった。
実際に見せられては信じないわけにもいかない。
俺は彼女との7日間の共同生活を了承した。
*** *** ***
「この携帯電話って、まるで魔法じゃないですか!」
本当の魔法を使える女の子が誰でも持ってる携帯に感動している。
何ともおかしな光景だ。
「君の魔法の方がすごいよ。えっと…」
「夕月です、碧海 夕月」
「ゴメン。その…夕月ちゃん」
違う世界から来たというのに、言葉も不自由なさそうだし、名前も普通だ。
更に言うと、どう見ても俺より年下だ。
年下の女の子とあまり接したことがない俺はいちいち戸惑ってしまう。
そんなんでよく了承したな、昨日の俺。
「世良さん、願い事が決まったらすぐに言って下さいね」
裏も何もなさそうな善意だけの笑顔。
これが彼女を信じてしまった一番の要因かもしれない。
(この7日間で俺も役に立てれば良いけど)
そう思って深く息を吐くと、ヤバイ時刻を示す時計が目に入った。
「やっべ、遅刻する!」
「え?」
食器もそのままに、俺はカバンを持って玄関へと走り出す。
「世良さん、どうかしたんですか?」
夕月ちゃんが不思議そうに俺を追ってくる。
走ってではなく、宙に浮いて来る所が魔法使いだ。
「俺は用があって出掛けるけど、夕月ちゃんは家にいて!」
「えっと…あの…」
「ゴメンッ、行ってくる!」
困惑する夕月ちゃんを後に俺は家を出る。
本当に申し訳なく思うけど、練習に遅刻するワケにはいかない。
二つ目の願いを使えば良かったと気付くのは、大分後のことだった。