好きって3回唱えたら。 | ナノ
第2.7日
世良さんに怒られてしまった。
憧れの世界に来たのに昨日から失敗ばかり。
着地に失敗して窓を壊したり、今だって勝手について行って怒られたり。
「役に立つどころか…迷惑ばっかりかけてる…」
魔法を他人の為に役立てよう。
そんな決意をしてこの世界に来たはずなのに。
「魔法なんて必要なさそう…」
人々は自分の足で歩いて、時には走っている。
魔法の助けなんて誰も必要としていない。
世良さんだってきっとそう。
『とにかく待ってて。魔法とかは使わなくて良いから』
魔法も私も要らないって言われたみたいで辛い。
(辛い、か…)
こんな感情も久し振りだな。
元の世界では人に怒られることなんてなかった。
お互いが不快になるような距離に他人は居なかった。
誰もが誰かを気にすることなく、魔法に頼りきって生きていた。
今それを実感している。
出会って間もない人に怒られた事実を胸の痛みが証明してる。
この痛みはどうやったら治るの?
「夕月ちゃん!」
「っ、世良さん…?」
その声と姿にまた胸が痛む。
こんな時に助けてくれる魔法は知らない。
何とかする言葉だって思いつかない。
何も持たずに人と向かい合うのはこんなに怖い。
(また怒られる…!)
私は覚悟して目をきつく瞑った。
「さっきはゴメン!」
予想してたのと違う言葉。
恐る恐る目を開けると、何故か世良さんが頭を下げている。
(…どうして私が謝られてるの?)
頭の中が疑問符でいっぱいになる。
反応できないでいると、世良さんがゆっくりと顔を上げた。
「余裕なくてひどいこと言ったと思うから…ゴメン」
さっきの私と同じくらい元気がない世良さん。
どうしてだろう。
怒られたのは私で、落ち込むべきは私なのに。
どうして怒った世良さんが元気をなくすんだろう。
分からないことだらけ。
でも、さっきまで痛かった胸が温かい気持ちで満たされる。
こんなことは初めてだから理由は分からない。
だけど、これが人と関わるという事なら。
私が憧れていた、この世界の絆なら。
「私の方こそ…ごめんなさい」
世良さんと同じように頭を下げる。
そして顔を上げた時、笑顔の世良さんと目が合った。
初めて世良さんとの絆を結べたような気がした。