好きって3回唱えたら。 | ナノ
第6日


学校の勉強なんて何一つ役に立たない。


「うーん…」


雑誌と鏡と睨めっこする月明かりの屋根上。
書かれている文字を追っては、鏡で自分の姿を見ての繰り返し。


雑誌の内容は、この国の若者の流行ファッションについて。
写真付きの解説が載っていて、私のような初心者にも分かりやすい作りだ。
その他にも役に立ちそうなことがたくさん。


変な話、学校で使う教科書よりも気が利いている。
もうコレを教科書にすれば良いと思うくらいだ。


実際、そうしてくれれば今回こんなに困らなかった。


「デート…かあ…」


世良さんの願い事はまたしても意外なものだった。
また、魔法が役立たないことだった。


「俺とデートしてほしい」


単語の意味は知ってる。
それが願い事の中で使われたことに驚く。


「世良さんはそれで良いんですか?」


そう訊ねると、力強い頷きが返ってきた。
世良さんが本気なんだと分かってしまって、それ以上は言えなかった。


『他の人にも私の姿が見えるようにして一緒に出掛ける』


まとめると、これが最後の願い事の内容。
世良さん以外の人にも見える姿となると、服装も気にしないといけない。


多分このままの格好じゃ目立ってしまうと思う。
だから普通にしないと。


「普通に…」


私はこの世界の人間じゃないし、普通のことなんて何一つない。
なのに普通になろうとしてる自分がおかしい。


(なれなさそうだけど…)


一夜漬けの努力じゃ限界がある。
試験勉強でも何でも同じことだから分かってる。


(…それでも頑張るの)


それが普通の女の子だって、この世界の雑誌にも書いてあるから。


*** *** ***


多分、変ではないと思う。


自分でも可愛いと思ったものを選んだし、着た姿に違和感もない。
ちゃんとこの世界の人に見えると思う。


あとは世良さんに気に入ってもらえるかどうかだけ。


嫌な緊張を抱えながら、世良さんと待ち合わせた場所へと向かう。
いつもみたいに飛べないから、ちゃんと自分の足で一歩一歩進む。


だけど、全然気は紛れない。
雑踏に紛れているはずなのに全然気持ちが楽にならない。


(あ、世良さん…)


まだ遠い待ち合わせ場所にその姿を見つける。
どうして見つけちゃうんだろう。


この気持ちが他の気持ちと交わらないように、世良さんも他とは違って見える。
練習の時も、試合の時も、今も。


魔法を使わなくても、いつでも一番に見つけられる。


この世界で身に着けた、私が誇れる唯一のこと。
今はそれを自信に変える。


不安を無理やり抑え込んで、遠くに見える世良さん目指して駆け出す。


「世良さん!」


呼ぶと笑顔で振り向いてくれる。
そんな関係を、私は世良さんと築くことが出来たんだ。



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