好きって3回唱えたら。 | ナノ
第5.5日
おばあさんは道に迷って困っていたらしい。
俺の知ってる店だったから案内してあげることにした。
「行き慣れてる所なんだけど…ほら、今はアレがないでしょ」
「アーケードないと分かんないッスよね!」
「そうそう、アーケード」
話しを弾ませながら歩いていく。
こういうのは得意だし、それに好きだ。
「アーケードって何ですか?」
「…ごめん、後で」
「あら、何か言った?」
「何も言ってないッスよ!」
ただ、夕月ちゃんと堂々と会話が出来ない。
それだけが困る。
「アーケード…アーケード?」
後ろから聞こえる夕月ちゃんの呟きに罪悪感を感じながら。
おばあさんの歩調に合わせてゆっくりと店へと向かった。
*** *** ***
「少し待っててね」
目的地である店に着くと、おばあさんはその一言を残して店に入っていく。
何だろうと不思議に思いながらも待つことにした。
そして、俺と同じく不思議そうにする夕月ちゃんに話しかける。
「アーケードってアレのこと」
今いる場所の頭上にはないから、俺は少し先の方を指差す。
夕月ちゃんの視線が俺の指す先を追う。
「天井ですか?」
「どっちかっつーと屋根じゃね?」
「…屋根でしたか…」
言葉での説明は難しいけど、それが何であるかは伝わったみたいだ。
このアーケードは新仲見世通りの特徴だ。
その一部が老朽化とかで取り外されてるから、今日みたいなことが起きる。
「お兄さん」
「あ、終わりました?」
背後から聞こえた声に振り返る。
すると、黄色の小さな紙袋を差し出された。
「せめてものお礼に受け取ってちょうだい」
「いやいや!俺なんもしてないし!」
「ここのふりかけ美味しいのよ」
両手を振って拒否するが、おばあさんが上手く俺の手に持たす。
「本当に助かったのよ。有難うね」
待っていたのは決してそんな理由じゃなかったのに。
どうしてそこまで考えられなかったんだ俺。
自分の浅はかさに後悔する。
だけど、そこまで言われたら受け取らないワケにはいかない。
「…アザッス!」
深々と頭を下げると、おばあさんは笑顔で去って行った。