好きって3回唱えたら。 | ナノ
第4.5日
結局、試合は引き分けてしまった。
ゴールも決められなかった。
「あー!くそーっ」
夕月ちゃんと二人の帰り道。
そんなで愚痴をこぼさずにはいられなかった。
だって色々あるじゃん!
夕月ちゃんにカッコイイとこ見せたかったとか!
だから絶対ゴール決めたかったとかさ!
「あーあ…」
がっくりと肩を落とす俺。
夕月ちゃんは相変わらず宙に浮きながら俺について来る。
こんな情けない俺に…
「世良さん、そんなに落ち込まないで下さい」
夕月ちゃんの優しい声色が傷心に染み入る。
それも今は痛いだけだ。
「そりゃあ無理だよ…」
「でも、負けなかったじゃないですか」
「勝たなきゃダメなの!」
何も下心だけじゃない。
試合に勝ちたいのはスポーツマンとして当然の心理だ。
勝ってなんだってモンでもないけど、ただ勝ちたい。
そして、出来れば自分がゴールを決めたい。
その気持ちだけが俺の原動力で、他のことはあまり気にしてこなかった。
犠牲にしてるつもりはない。
だけど、気にかける余裕がないのも事実だ。
そこまで懸けてんだから、絶対勝ちたいじゃんか。
「じゃあ、願い事を使って下されば良かったのに」
独り言のように呟かれたその言葉に、心が激しく揺さぶられる。
俺の努力とか、なけなしの才能とか。
そんなの関係なしに願いを叶える手段が今ならある。
夕月ちゃんの力はそうやって使ってもらうべきなのかもしれない。
そう思うと、昨日の願い事とかホント無駄に使った。
…そうなのか?
確かにどうしようもない願い事だった。
だけど、夕月ちゃんは一生懸命叶えようとしてくれた。
俺はその気持ちが嬉しかったんじゃないのか。
一瞬でも気持ちがブレてしまったことが恥ずかしい。
俺は顔を上げて、まっすぐ前を向いて答えた。
「好きなことだからズルしたくないんだ」
魔法をズルなんて言ったら夕月ちゃんの気分を害するかもしれない。
それでも、ここ数日の練習を見てくれてた夕月ちゃんに伝われ。
ただ俺がひたすらに頑張ってきたこと。
その努力は、昨日の君の努力と同じものだってこと。
出来ないことを頑張れるってスゴイことなんだ。
「…うん…」
「ん?」
「そうですね、その通りです…」
夕月ちゃんが自分を納得させるように呟く。
その表情はとても嬉しそうで、充実感に満ちているようにも見えた。
「よいしょ、っと…」
「どうしたの?」
夕月ちゃんが浮くのを止めて地面に足を着ける。
そのまま俺の隣を歩き出すから驚いた。
「えっと、何となく歩きたくなって」
「…そっか」
それ以上は聞かずに、歩くペースを少し落とした。
足音が二人分になった帰り道。
空を見上げれば、綺麗に輝く星の道が俺の家まで続いている。
それを教えてあげようと隣を見ると、夕月ちゃんと目が合った。
「あの…星が…」
「あ、俺もそれ言おうと思った!」
なんだ、同じこと思ってたのか。
出会ってまだ数日なのに、何でここまでシンクロしてんだ。
お互いにおかしくなって笑い合う。
気付けば、試合での悔しさはもう大分軽くなっていた。