好きって3回唱えたら。 | ナノ
第4日
「今日は練習はないんですか?」
いつもと違って随分とゆっくり朝を過ごす世良さん。
不思議に思って聞いてみると、世良さんの顔に気合が入ったように見えた。
「今日は試合!」
「試合?」
単語は知っているけれど、意味する所が分からなくて鸚鵡返しにしてしまう。
世良さんは力強く頷く。
「今までの練習の集大成!」
*** *** ***
大勢の人が一つの場所に集まっている。
それだけなら学校と同じだけど、これはもっと大規模だ。
ここはスタジアムと言って、スポーツを観戦するところらしい。
そして、今日は世良さんが出場するサッカーの試合がある。
(この人達はみんなファン…なんだよね?)
どことなく重い緊張感を漂わせる人達。
とてもじゃないけど、楽しみに来たようには見えない。
(これがこの世界の文化なのかな?)
異世界から来た私には分からない独特の文化なのかもしれない。
でも、いつものように積極的に近寄れない。
何かそれを許さない雰囲気があるように感じる。
だから私は後ろの方でこそこそとしている。
世良さん以外には見えないのだから、そんな必要はないんだけれど。
「少し怖い…です」
昨日の本屋しかり、私は世良さんがいないと弱気になるらしい。
どうにかしなくちゃな。
(まあ、でも…)
後ろからでも見えないことはない。
それに、遠くから世良さんを見つけるのはこの数日で得意になった。
いざとなったら魔法もある。
出来れば頼りたくはないけれど。
そんなことをぼんやりと考えながら試合開始を待った。
*** *** ***
試合開始までは長かったけど、始まってからはあっという間だった。
昨日まで見てた練習と同じように人が走ってた。
でも、雰囲気が全然違う。
試合開始を待っていたファン(なのかな?)の人達以上の緊張感。
こんなに離れていてもそれが伝わってくる。
選手の人が縦横無尽に走り回る。
その一連の流れの中で何度も響きを変える歓声。
(なんだろ、これ…)
この世界に来て初めて感じる気持ち。
勝手に込み上げるようにして出てきて、自分じゃどうしようもない。
叫びたい。
絶対届くわけないのに、世良さん頑張れって叫びたい。
昨日と同じ。
魔法じゃないところで力になりたい。
「なれるのかな…」
不安が顔を覗かせる。
それでも、目はずっと世良さんを追ってる。
昨日までの練習と同じように。
誰よりも速く、たくさん走る世良さんを、きっと誰より捉えてる。
「よし…!」
行動は迷う心よりも正直だと信じて。
私はスタジアムの熱い空気を胸いっぱいに吸い込んだ。