好きって3回唱えたら。 | ナノ
挨拶の多様性
「チースってなんですか?」
ある日、夕月ちゃんにそんな事を聞かれた。
「どうしたの突然?」
「世良さんがいつも使っているので気になって!」
言われてみれば、日常的に使ってるかも。
まあ言われて気付くってことは、そんなに意識してないってことなんだけど。
言われてみれば、何なんだろう。
そういうことって世の中に結構多い。
これもその一つということなんだろう。
「えっと…挨拶?」
まあ間違いじゃない。
と言うか、説明するのは何となく難しい。
きっと嘘は言ってないから大丈夫だろ。
「ふむふむ。こちらの世界には色んな挨拶があるんですね」
夕月ちゃんが律儀にメモに書き込む。
説明する努力を怠ったことに軽い罪悪感を覚えた。
「世良さん」
「なに?」
「私にも使えるでしょうか?」
顔を上げた夕月ちゃんの目は子どもみたいにキラキラしてた。
罪悪感がより激しいものになった。
「…やめた方がいいと思う」
「?」
夕月ちゃんには絶対似合わない。
それだけは何となく分かる。
それを止めることだけが、俺にできる唯一の良心だった。