好きって3回唱えたら。 | ナノ
第3.6日
祖母がよく作ってくれたこの世界の料理。
私はそれが大好きで、祖母の家に行く度にねだっていた。
作り方を教わったことはない。
覚えているのは、作っている時の祖母の後姿と、その味だけ。
見た目と匂いも何となくは覚えている。
だけど祖母が亡くなって久しい今、それには少し自信がない。
魔法が使えない今、それを再現できる自信は無いに等しい。
それでも、私が知ってるこの世界の料理はそれしかない。
だから頑張るしかない。
世良さんに喜んでもらう。
それだけなんだけど、それがすごく難しい。
その矛盾に苦笑しながら、私は材料集めを始めた。
*** *** ***
「…使っちゃいけないんだった」
調理を始めてから何度目になるだろう。
無意識で魔法を使おうとする自分をこうして諌めること。
周りの人ほど魔法に頼ってないつもりだった。
だけど全然そんなことなくて、私もかなりの部分を魔法に頼っていた。
祖母に料理を教わらなかったのも、そういう理由なのかもしれない。
いつでも何でも魔法でどうにかなると思ってたのかもしれない。
それが無意識だから怖い。
この世界に来てから気付かされることが多い。
逆に、来なければ気付かなかったのかもしれない。
自分の無知とか傲慢とか。
何にでも夢中になれたりとか、そういう面も全部。
もしも世良さんに出会えなかったら、私は私を知らないままだった。
ほんの少し過去を悔やむ気持ちもあるけれど。
それよりも、世良さんと過ごせる短い時間を大切にしたい。
まっすぐ走る世良さんに憧れてるから、私も前向きでいられるよ。
「魔法は禁止!」
強い覚悟を口にして、今度こそと意気込んで包丁を握った。