好きって3回唱えたら。 | ナノ
第3.5日
世良さんの二つ目の願い事。
それは「魔法を使わずに夕飯を作る」こと。
不思議な願い事だと思う。
だけど理由とか真意を聞くことはしない。
私はただ、頑張るだけ。
喜んでもらえるように頑張るだけ。
例え魔法が使えなくても。
「まずはメニューを決めなくちゃ」
これを決めないことには頑張りようがない。
世良さんに聞いておけばよかったと少しだけ後悔する。
「困った時は本屋さん、だよね」
祖母にそう教えてもらった。
私は辺りを見回してそれらしき店を探した。
*** *** ***
世良さん以外の人に私の姿は見えてない。
そのはずなのに、一人で店に入ったら途端に緊張する。
本に囲まれる環境には慣れてる。
元の世界にも図書館はあったし、私はよくそこに通っていた。
だから、異世界ってだけでこんなに違うと思わなかった。
憧れだった世界も一人じゃ怖い。
世良さんが居てくれたから、はしゃいでいられたんだ。
それに気付いたら、自分がとても情けなく感じた。
「本当に出来るのかな…」
唯一の取り柄である魔法も使わずに、世良さんを喜ばすなんて。
魔法を使っても迷惑ばかり掛けていたのに。
出会ってから数日。
たくさんお世話になって迷惑かけて、色んなことを教えてもらった。
世良さんからいっぱい嬉しい気持ちを貰った。
(…あれ?)
そこまで考えてふと気付く。
見過ごしていたけど、とても重要なこと。
世良さんは魔法なんて使ってない。
魔法を使える私ができないことを世良さんはしてくれる。
言葉とか笑顔とか、その全部で。
「…………」
私にも出来るかな。
胸の奥から何かが込み上げてくるのを感じる。
それは元の世界では感じたことのない、熱いものだった。
(頑張ろう…)
そうすることしか出来ないから。
自信の無さとか不安とか、今だけは忘れよう。
練習の時の世良さんのように、がむしゃらに走ってみよう。
「そうだ…!」
突如ひらめいた案に一人で納得して、私は本屋を後にする。
思い出した。
魔法なしで作れる料理があったこと。