好きって3回唱えたら。 | ナノ
郷愁
元の世界にも学校と呼ばれるものはあった。
同年代の子どもが集まって一つのクラスを形成する。
先生と呼ばれる人がいて、教科書を読んでくれる。
それだけだった。
休み時間に話したり、放課後一緒に帰ったり。
こちらの世界で普通とされるコミュニケーションは全くなかった。
ただ、嫉妬心というものはこちらの人以上だったようで。
成績が良かった私は、同級生からよく嫌味を言われた。
祖母に聞いた異世界に憧れて勉強を一生懸命頑張っていた。
私には目的があったから、その言葉を特に気にすることはなかったけれど。
もっと優しさに溢れた言葉のやり取りに、ずっと憧れていた。
*** *** ***
「世良さん!」
「どうかした、夕月ちゃん?」
呼んだら振り向いてくれる。
元の世界ではなかった交流がとても嬉しくて。
「これは何ですか?」
小さな用で何度も世良さんを呼んでしまう。
迷惑かなって思うけど。
「それは掃除機。コンセントにつなぐと動くんだよ」
「コンセント?」
「これのこと」
「あ!これ、あちこちにありますよね!」
世良さんが笑顔で答えてくれるから、その優しさに甘えてしまってる。
私は世良さんの願いを叶えに来てるのに。
どうして私が嬉しくしてもらってるんだろう。
「久しぶりに掃除でもやろうかな」
「これを使ってですか?」
さっぱり使用法が分からないその機械を指差す。
世良さんは頷いた。
「して見せるよ。気になってるんでしょ?」
「…はい!」
この世界に来てから、世良さんにはお世話になりっぱなしだ。
それでも世良さんは嫌な顔一つせずに教えてくれる。
私は今、憧れていた景色にいるんだ。
それが例えたったの一週間だとしても。
元の世界に帰ってもきっと忘れない、大切な時間。