好きって3回唱えたら。 | ナノ
第3.2日
「ごめん。見てるだけじゃつまんないでしょ」
はしゃぐ夕月ちゃんを見てたらそんな言葉が出てきた。
急に申し訳なくなった。
こんな些細な事で喜んでくれる夕月ちゃんに、俺は何も出来てない。
夕月ちゃんは俺が謝った理由が分からないみたいだ。
そんな顔してる。
(…また困らせてる…)
そんなことを望んでるんじゃないのに、どうしてこうなるんだ。
やることやること裏目に出る。
女の子と話したことなんてあまりない。
こんなに近くに女の子が居るのは初めてだ。
(王子とかだったら上手くやんのかな…)
こういうのって、やっぱり経験なんだろうか。
勇気を出して女の子に近付いてこなかった事を今ほど後悔したことはない。
目の前の夕月ちゃんに俺も何かしてあげたいのに。
それはきっと、そんなに難しいことじゃないのに。
「そんなことないです!」
「…え?」
下を向きかけていた顔を上げる。
そこにはやっぱり、笑顔の夕月ちゃんが居た。
「とっても楽しいです。大勢の人が走ってるの見るの…」
少し前までの光景を思い出すように夕月ちゃんが目を閉じる。
そして大きく頷いて目を開けた。
「楽しいですよ」
「…!」
夕月ちゃんの大きな瞳が俺を捉えた時、ヤバイと思った。
多分赤くなってる顔を隠すために彼女に背を向ける。
「世良さん?」
「ゴ、ゴメン…!」
ヤバイ。これはマズイ。
速くなる一方の鼓動を押さえつけるように服の上から胸を掴む。
同時に目もきつく閉じる。
(俺…なんて思った…!?)
俺の不甲斐なさとか不器用さとか全部。
そのまま受け入れてくれて、見返りも求めない夕月ちゃんに。
この子が彼女だったら良いのに。
そんな風に思ってしまった。
「世良さん、大丈夫ですか?」
「うん…何とか…」
「魔法で治しますか?」
「……魔法…」
その言葉にハッとする。
そうだ。夕月ちゃんは普通の女の子じゃないんだった。
こことは違う世界から来た、魔法が使える女の子。
俺の願い事を三つ叶えたら居なくなってしまう。
ずっと一緒に居られるわけじゃない。
そんな夕月ちゃんにこんなこと思うなんてどうかしてる。
第一、こんなヤツに想われても迷惑だよな。
「魔法…使いますか?」
一個目の願い事はもう使った。
叶えてもらえる願い事はあと二つ。
使えば使うほど、夕月ちゃんと一緒に居られるリミットは迫る。
だけど俺は使わずにはいられなかった。
「じゃあ…お願いしてもいい?」
「はい!」
さっきまでとは違う笑顔。
夕月ちゃんの意気込みが伝わってくる。
そんな様子に後ろめたさを感じながらも、俺は覚悟を決めて言った。
「今日の夕飯作ってくれない?」
「お夕飯…ですか?」
「そ。出来れば魔法は使わないで」
「え…ええ!?」
恋人にはなれなくても、らしいことをしたい。
そんなどうしようもないワガママからの願い事だった。