PRRR…PRRR
『んんっ』
傍にあった携帯をあたしは乱暴に開いた。まだ7時45分じゃん。誰だあたしの睡眠を妨害する奴は!朝っぱらから電話してくんな。しょうもない用だったら、すぐに切るからっ。
ディスプレイを目を擦りながら見てみると、そこには「しろ」の文字。
(もしもしー?) (遅ぇよ咲夏。何回掛けたと思ってんだ) (あたしの睡眠妨害しないでよ) (あほ。そろそろ起きないと遅刻するだろ)
まぁ徒歩で行くにはギリギリってとこは認めるけど……。チャリで飛ばせば十分、間にあう。うん、あたしの脚力をなめちゃあいけない。
(で、もう大丈夫なのか?) (――。あぁ!うん、まぁね)
しろが言うまですっかり忘れてた。あたし昨日まで風邪で寝込んでたんじゃん。あたしよりも先に気づくとは!しろも中々やるではないか。
とかギャグで言ってみるものの……結局しろのさり気ない優しさにあたしは毎回感謝してる。分かりにくいんだよ、ばかやろー。
(五分で支度しろよ) (は?) (俺が迎えに行ってやるから、それまでに済ませておけ)
いや普通に考えて無理でしょ、しろくん。あたしの今の状況分かってます?寝起きですよ、寝起き。つまり頭ボサボサ、お腹ペコペコ、制服着てない。この全てをたったの300秒で制覇しろと?
無理っしょ!!
渡嘉敷さんはスーパーウーマンじゃないから!時間を操る能力とか、そんな便利なもん持ってないから!
(せめて10分に……!) (ツーツーツー) (ちびシロのばっきゃろー!!)
勝手に用件だけ告げられても、困るから!あたしにだってリズムがあるんだからね。
「咲夏!しろが迎えに来てくれるらしいぜ。急げよ」 『分かってるわ、糞アニキ』
わざわざあたしを起こしに様子を見に来た、アニキの顔に枕をヒッティング!ぶはっとか変な声が聞こえてきたけど、気にしない。気にしない。
あたしはアニキに構ってる暇はないのです。
「あんた、しろくんもう迎えに来てるわよ、急ぎなさい」 『うそん。早すぎっしょ、それ。まだ5分も経って……』 「るわ、ボケ!ちなみに俺がここに来てから10分は経った」
あらまぁ。時が経つのはお早いことで……お!もうすっかり8時じゃないか。渡嘉敷さんのうっかりさ〜ん☆
なんて言ってる場合じゃない!さすがに8時まわっちゃうとやばいぞ。こりゃ、超ハイペースでこぎ続けねば。
『しろ早く!まじで遅刻する』
うちのリビングでのんびり寛いでる幼馴染を引っ張り出し、自転車の鍵をポッケにいれた。自分でがあんなに急かしたくせに、なんでそんなゆっくりなのさ。
「あぁ、今日は俺の後ろ乗っけてやるから」 『は』 「病み上がりだから、可哀想だと慈悲の心を働かせてやったんだ」 『なにそれー!!』
だったらもっとゆっくり出来たじゃん。あたし朝ごはんも食べてないんだよ!?どういうこっちゃ! しろが漕げば全っ然余裕じゃん。くそぅ騙された。
しろはあたしに良かれと思ってしてくれてるのは分かるけど――。
『よし!じゃあレッツゴー』
終わったことは(基本)気にしない性格のあたしは気を取り直して、しろの後ろに乗った。
そしてカイロを見つけるために奮闘する。
「で?さっきから俺の体をまさぐり回してなにしてるんだ」 『あたし急いでたからコート着てないの』
カーディガンにブレザーだけでは寒いんですよ。それにあたしのカイロはさっき開封したばっかだから暖かくないし。しろのはちゃんと暖かいはずだ。
『え、ちょっとシロちゃん。カイロどこに隠し持ってんの』 「その呼び方を今後一切使わないって約束すんなら、貸してやる」 『了解、りょーかい。ひつがやくん』
赤信号で止まってる間に、しろはポンと頭の上にカイロを乗っけた。おぉ!やはりカイロは必需品です。この温さ、しあわせだぁ。 お返しにあたしの冷え冷えカイロを渡すと、そくざに要らねぇって返された。これ一応使えるやつなんだけどな……。
「あ。そういや休んだ分のノート一応一通りコピってやったから」 『シロちゃん!ありがとう。今あたしは君の親切にウルウルきてます』 「降ろされてぇのか、テメ」 『滅相もございません』
あたし自分の字汚くて嫌いなんだよねぇ。授業中は分かってても、あとから開くとナニこの暗号?状態。その点しろのノートは誰が見ても分かりやすく、綺麗にまとまってる。
いつもはどんだけ頼んでも見せてくれないのにね。なるほど!休んだらしろはコピらせてくれるのか。覚えておこう。でもって、テスト前に休んで有り難くしろのノートを頂こう。
「分かってると思うがズル休みしても無駄だぞ」 『………』 「お前の悪知恵くらいすぐ見抜ける」 『アーユーエスパー?(※Are you a esper?)』 「初めから他力本願な奴には貸さねぇよ」『左様ですか』 「しっかり授業聞けよ」
こういう融通の効かない性格が玉にきずだよねぇ。
(本当はそれもしろの優しさだって知ってるけど)
確かにしろはあたしが勉強を丸投げしたら怒るけど、あたしが教えて欲しいって頼んだらとことん付き合ってくれる。夜中の一時でもテスト前日の朝でも、あたしが電話したらすぐに来てくれる。で、あたしが理解するまで根気よく説明してくれる。
こんなに迷惑かけても嫌な顔しないの、多分しろくらい。
「あ。忘れるところだった」 『んー?なに?』 「コピー代。200円な」 『なぁっ!お金取る気!?』 「当たり前だろ。親しき仲にも礼儀あり、だ」 『しろくん、冷た〜い』 「コピー用紙にタダで印刷できると思うな」
ケチんぼ。普段ろくにお金使わないくせに!明らか消費金額<お小遣いのくせに。いいじゃんか、200円くらい。幼なじみの全快祝いにそれくらい出してよね。
ぶぅぶぅ後ろで文句を言う。だけどしろは既にあたしから意識を飛ばしてるようだった。
(ヒドいなぁしろ)
『明日お母さんに請求してね。くれぐれも必要出費ってことで』 「あぁ、……咲夏あれ本気にしてんのか」 『え、それこそどういう意味さ』 「浮竹が学校のでコピったから、タダ」
んだとオォ!あたし完全に今信じたからね。しろは嘘付かないやつだと信じてたからね。お母さんちゃんと出してくれるかなぁとかマジで心配したから。
たかが200円?いいえ。されど200円!渡嘉敷さんのお財布事情を思い知れ。
「それとしばらくスカート掴んどいた方が身のためだぜ」 『意味わかんない』 「色気のない下着を他人に視られてもいいんなら、俺は強制しねぇがな」
<俺は>の部分でしろはもうペダルを思いっきり踏み込んでいて……あれェ?とか考えてる間にもう自転車はかなりのスピードが出ていて、
気付いた時にはぺらんとあたしのスカートが――!
『ギャァア!!捲れる、捲れる!ちょっとストォーっプ』 「聞こえねぇな」 『ざけんな、チビ!一端止まることがなんで出来ないの!!』
ここらは一回止まったら、なかなか青にならねぇんだよ。とかもっともな事を言われたあたしは黙るしかない。 畜生、しろめ。あと数秒早く言ってくれれば苦労しなかったのに。 苦し紛れにしろの腰に回していた腕で、肉をを思いっきり抓ってやった。みごとに無駄のない体ですこと。全然掴めないじゃん。
「痛!」 『あら〜。ゴッメーン!手が滑っちゃった』 「お前の子供っぽい下着になんざ、誰も興味ねぇよ」 『ウルサい。あたしもちとは自覚して……うッぐはっ!』
キキキィ――
いきなり止まったしろの体にあたしは頭からぶつかった。(慣性の法則だっけ?)
頭を押さえながら辺りを見渡すと、見慣れた風景。おぅ、3日ぶりの学校じゃないか!しろにどうやって恨みを晴らそうか考えてる間に着いたらしい。
「お前休んでる間に太ったんじゃね?」 『し……失礼なっ』 「その様子じゃ、やっぱし太ったみてぇだな」
ニヤリと笑い、人の気にしている事を的確にしろはついてくる。そうです。あたしこの3日間で1.5キロ増えました。 風邪を治すには、よく食べてよく寝ることだ。あたしは間違っちゃあいない。
どれだけ食べても太らないしろとは体質が違うんだ。自分と同じものさしであたしを測るな。
「あ!咲夏!!おっはよー。風邪治ったの!?」 『乱菊おはよ!うん。もうばっちし』 「代わりに2キロ太ったけどな」
教室入ってみれば、いつもと同じように乱菊たちが声をかけてくれた。いいよね、友達って。休んでる間に送られてくる<大丈夫?>ってメールは本当に嬉しい。
しろの最後の一言をスルーして、あたしは自分の席に向かった。ちなみに2キロじゃなくって1.5キロね。
『げ。なにこのプリントの山』 「これは一昨日の小テストでしょ。こっちは昨日の古典の現代語訳。そんでもってそれは……」 『乱菊!あとで聞く。一気に言われても頭に入んないから』
机の中から取り出した大量のプリントに気が遠くなりそうだ。3日間って6×3+1で19コマもあるんだもんね。これだけ授業が進むのも当たり前か。
とりあえずプリントを確認してみようと広げてみたら、それが驚くほど規則的に並んでいることに気付いた。浮竹先生がわざわざ教科ごとに並べてくれたのかな?
「あぁそれね、並べたの冬獅郎だから。あとでお礼言っといた方がいいんじゃない?」 『しろ、が』
こんなところにまで、しろの優しさが見え隠れしてる。あたしはどうやら想像以上にしろの厄介になってるらしい。
(でも、分かりにくい!)
『ふぅ。あっつ』
この教室暖房効きすぎ。頭がぽぉーとして、眠くなりそうだ。そう思って上に着ていたブレザーをあたしは脱いだ。中にはシャツとブラウス、カーディガンがあったから十分暖かい。
あれ。なんか乱菊の顔が笑ってない?
「咲夏……あんた病み上がりとはいえ、高校生にもなってその間違いはどうかと思うわよ」 『ん?何が』 「仕方ねぇよ松本。こいつ熱にうなされて、バカが進行しちまったんだ」 『しろ!バカとは何なのよ?!』 「そのまんまの意味だ」
仕舞にはクスクスと周りからも笑い声が聞こえきた。みんなあたしの方を(決して自意識過剰とかではない)見て何やら話している模様……。
「確かに朝急かした俺にも責任はあるかもな」 「冬獅郎は咲夏の保護者だもんね」 『違う乱菊。しろはあたしの幼なじみ!てか二人ともさっきからいったい何なの!感じ悪いよ!!?』
耐えきれず、声を張り上げたあたしをしろは窘めるように口を開いた。
「鏡の前で自分の格好を確認してみろ。特にカーディガンの部分」
掛け違えたボタン (ボタン掛け間違えるとか、お前は幼稚園児か)(しかも2つもねぇ)(う!うるさいッ。寝ぼけてたから仕方ないのっ)
*あとがき* さりげなく気を配れる日番谷くんが書きたかった。タイトルはなんかシリアスな小説にありがちな題名だけど、普通に考えたらおかしいですよね(爆)友達が掛け間違ってるのをみて、思いつきました←恥ずかしいので確認しましょう^^;
2010/02/13
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